スタイリストの哲学 ?西股 淳一の場合?
ファッションというのは服単体では存在し得ません。何を選ぶかだけでなく、それをどう着こなすかがとにかく大切。そしてそのテクニックに精通する者。それがスタイリストです。彼らがいるからこそ、ファッションはさらに鮮やかな彩りを帯びる。ファッションシーンの立役者と言って間違いはありません。さて、今回で6回目を迎える「スタイリストの哲学」。ゲストは今メンズ誌を中心に活躍する西股淳一さん。洋服の機微をとらえた繊細でクリーンなスタイリングに定評あり。はたしてその「哲学」や、いかに。
??西股さんはスタイリストの二村毅さんを師事し、独立して今に至る訳ですが、そもそもスタイリストを目指したきっかけは何だったのでしょうか?
実は僕は高校を卒業してから 2 年間くらいは地元の靴屋で働いていたんです。ファッショ ンは高校の頃から大好きでしたが、スタイリストになろうなんてことは想像さえしていま せんでした。でもあるとき、某雑誌のロンドンスナップを見ていたら、サイモン・グレイ っていうめちゃくちゃお洒落な人がそこに載っていて、すごく衝撃を受けたんです。バレンシアガとかイヴサンローランとか、当時僕にとってはほとんど無縁だったブランドの服をもの凄くお洒落に着こなしていて…とにかく感動したんですよ。そこで何かのスイッチが入ったのか分かりませんが、スタイリストを目指すようになったんです。それで文化服装学院に入学しました。
??それで二村さんのところへ。
二村さんが作るファッションページが昔から大好きだったんです。スタイリングもそうだし、作り出す世界観もすごくて。そのミニマルな世界観に影響を受けて、僕もほとんど無地しか着なくなったくらいですから(笑)。専門学校在学中に履歴書を送って、卒業とともにアシスタントにつかせていただきました。
??これは過去取材させていただいたスタイリストみなさんに聞いているのですが、憧れていた世界と、実際は行って見た世界と、ギャップはありましたか?
それは特になかったですね。まわりから聞いていた以上にハードではありましたが、自分がやりたいと思ってきた以上もうやるしかない。それだけでした。
??二村さんの元には約4年間いらっしゃったわけですが、特に印象的だった撮影などはありますか?
一度山の上で撮影をするという企画があったんですが、それは思い出深いですね。片道2.5時間のトレッキングをして撮影現場に向かうのですが、現地で電源が必要なのでジェネレーターを持っていかなければ行けないんです。それをアシスタント達で協力して持って行ったのですが、その重量がハンパじゃなくて(笑)。みんな慣れない山登りで靴擦れ。靴を脱いだら両足血だらけみたいな状態でした。でもその撮影が格好よくて。本当に凄い作品になったんです。そういう経験ができたことは、僕にとって素晴らしい財産になったと思います。
??そういった経験が今の西股さんのクリエイションを支えているわけですね。
でもまだまだです。知識も到底師匠の足元にも及ばないし、まだまだ磨かなければいけないことはたくさんある。スタイリングだけじゃなく、写真の撮り方や世界観の作り方ももっと追求していかなければと思っています。
??アシスタントを経て一番学んだ事はなんですか?
@徹底的に可能性を追求するストイックな姿勢
A文字通りミリ単位でこだわるスタイリングと洋服のディテール
Bコミュニケーション能力でしょうか。
@は、例えばモデルをひとり選ぶにしてもプロモデルから街を歩いている素人の人まで、理想のイメージにぴったり合う人が見つかるまで探したほうがきっと良い作品になるはずですし、撮影場所に関しても同じです。“なんとなくよさそう”で終わるのではなく、いろんな可能性を考えていくことが大事だと学びました。これはとても難しいことですが、忘れないようにしたいと思っています。
Aはまさにそういうこと。例えばシンプルなニットをモデルに着せるとき、本当にミリ単位で着せ方やポージングを考える必要がある。大袈裟に聞こえるかもしれないけれど、本当にそれだけで見え方は凄く変わってくる。それはスタイリストのセンス灯の部分ではなく、重要な技術灯の部分ですよね。
??Bのコミュニケーション能力というのは?
これはもの凄く大事。スタイリストはクライアントや服をかしてくれるブランドやショップ、そしてフォトグラファーやヘアメイクといったクリエイターたちに囲まれてする仕事ですから、その都度プレゼンやディスカッションが必要になる。そこで自分のイメージを伝えなければいけないし、また相手のやりたいことを理解しなければいけない。独りよがりでできる仕事ではないんですよね。逆に言えば、コミュニケーション能力が高くなればいろんな人と会話をしているだけでどんどん成長していけると思うんです。自分で考える力がつくし、発想にも厚みが出てくる。そういった基本的なことをしっかり学べる環境にいられたというのは良かったと思います。
??西股さんが理想とするスタイリングはありますか?
難しい質問ですね…。ファッションは常に変化するものですし、ある程度はそこにアジャストしていく必要がある。もちろん自分の中にある軸は変わらないけれど、作り出すものは常にアップデートしていかなければいけないと思うんです。それに僕、飽き症なんで(笑)。でも大きくいえば、美しいスタイリングが好きですね。
??好きなスタイリストは?
やっぱり天才、ジョー・マッケナでしょうか。ストイックで繊細なものから大胆なものまでクリエイションの幅が広いのに、その内側には変わらないセンスが感じられる。世界観は違うけど軸は同じというか。刺激を受けます。
今季のSHIPS JET BLUEのラインナップから、西股さんが独自の目線で注目アイテムをセレクト。
”コーディネイトのコツ”とともにご紹介してもらいました!
左)このロンドントラディションのコートはオシャレですね。細身のシルエットなんだけどそれを主張しすぎないバランス感がいい。繊細な中に男らしさも残っているところがいいですね。ここに、今季も引き続き人気のタートルニットがいいですね。コートと差がつくローゲージがポイント。パープルの色みも絶妙です。
コート?48','000 (+TAX)/LONDON TRADITION × SHIPS JET BLUE
ニット?22','000 (+TAX)/DECK HAND
中左)今季はブリティッシュテイストの服は取り入れて正解。ブラックベースで2トーンのチェック柄は見映えがシックだから取り入れやすそうですね。パンツはこれで、ほかは全部黒無地で行くのがおすすめ。
パンツ?12','000 (+TAX)/SHIPS JET BLUE
中右)スタジャン風のブルゾンも今季はいいですね。これはリブの幅もちょうどいいし、普通ラインが入っているところを無地にしてミニマルに仕上げているのもいい。これもインナーにタートルネックニットとかが似合いそうですが、薄いストールを差して着こなしてもいいかもしれませんね。
ブルゾン?25','000 (+TAX)/Shanhouse × SHIPS GENERAL SUPPLY
右)ダッフルコートも久しぶりに気分ですよね。実は今季僕が注目している色がチャコールグレーなんです。ワントーンでコーディネイトしてもフレッシュな印象になりそうだし、しかもベーシックな色だから着る人を選ばず誰にでも似合いそう。これは持っておいて間違いなさそうですね。
コート?38','000 (+TAX)/LONDON TRADITION × SHIPS JET BLUE
西股淳一
地元、北海道の文化服装学院を卒業後、スタイリスト二村毅氏に師事。4年と1日のアシスタントを経て2011年に独立。ポパイ、メンズノンノ、ウオモ、グラインドなど、メンズファッション誌を中心に活躍。