SHIPS JET BLUE meets EXPANSION 日本人が手がける注目のニューヨークブランド SHIPS JET BLUE meets EXPANSION 日本人が手がける注目のニューヨークブランド

SHIPS JET BLUE meets EXPANSION 日本人が手がける注目のニューヨークブランド

SHIPS JET BLUE meets EXPANSION
日本人が手がける注目のニューヨークブランド

SHIPS JET BLUE

今季SHIPS JET BLUEに新しいブランドが登場する。それがNY発信の気鋭ブランド〈EXPANSION〉。手がけるのはNY育ちの日本人デザイナー、Hiroshi "Kirk" Kakiage氏だ。ストリートブランドの黎明期からNYとTOKYOを繋ぎ、様々なブランドやカルチャーを送り込んだ氏が手がけるブランドの正体とは!? NYに住むデザイナー本人に直接話を伺った。

――すでにNYには20年以上住んでいらっしゃるということですが、そもそもNYに行ったきっかけはなんだったのですか?

当時僕はヒップホップを中心に、ダンスやスケートボードなどその周辺カルチャー含めてすべて好きだったんです。特にダンスはわりと本気でやっていて、NYでやってみたいと思ったのがきっかけです。

――当時はストリートカルチャーが盛り上がり始めていた頃ですよね。それからアパレルにシフトしたきっかけは?

学生の時、夏休みでちょっとだけ日本に帰ってきたときに、新宿のJACKPOTというショップのオーナーに「買い付けでNY行くので遊びにいっていいか」って声をかけられたんです。もともと知り合いだったんですが、それから彼が良くNYの僕のところにくるようになり、それからシッパー(輸出)の手伝いをし始めて、そこからいろいろと手伝いをするようになったっていう感じです。

――思いがけない縁だったんですね。

もともと服は好きだったんですが、仕事にしようとは思ってなかったですからね。それに大学では心理学を専攻していて、ゆくゆくは心理学者になりたいって思っていましたし。その後は、JACKPOTのサポートの下、ディストリビューション会社を設立して、NYのブランドなんかを日本に送り込んでいました。

――当時は東京でもストリートカルチャー全盛期でしたね。JACKPOT、NEVERLAND、HECTIC。カリスマ的ショップがたくさんありました。KirkさんはかなりリアルタイムでNYのストリートカルチャーを東京に送り込んでいたんですね。

どうなんだろ……そんな偉そうなもんじゃないですよ(笑)。

――で、ついに2002年に自身のブランド〈EXPANSION〉をスタート。

これは誰からもサポートを受けずに、自分で勝負してみたくなったっていうのが本音です。それまでずっとアパレルでやってきたから、そのノウハウを活かして自分で表現をしてみたいなと。最初はTシャツ4型から。オリジナルのグラフィックを作ってTシャツに落とし込んで。日本の雑誌に売り込みにいったりもしていましたね。当時はネットがまだ普及していなくて、雑誌がすべての情報源だったから。
それからしばらくは調子が良かったんですが、そこからファッションシーン自体がちょっと元気がなくなってきていたりして、少し行き詰まりを感じている時があったんです。そんな中でとある知り合いに言われた言葉がショックでね。

――なんて言われたんですか?

「どうせ自分じゃ服も縫えないんだろ」と。これはショックでしたね。それから学校に行き始めて服作りを本格的に学んだんです。あと鞄作れる友人もいたので、それも学んだな。とにかく自分で作るということを修得したかったんですね。

――今でこそ“クリエイティブディレクター”とか“アーティスティックディレクター”といった、イメージや構想だけを作り上げる人が増えていますが、Kirkさんはあくまで自分の手を動かして作りたかったということですか。

そうですね。でも誰だったかな……デザイナーの友人には「あまり縫わない方がいいんだよって言われたこともあるんですよ。つまりあまり自分で現場のことを知りすぎていると、クリエイティブなイメージが制限されちゃうから。「この縫い方ははできないだろうな」とか「このパターンは複雑過ぎて大変だな」って分かっちゃったりするので、自由なイマジネーションが生まれないんだと。だけど僕は自分で作れる技術を習得したかったんですね。もちろんたくさんいい面もありますよ。工場の縫子さんとコミュニケーションが密に取れるし、そうすると自分のやりたいことも具体的に理解してくれる。今でもよく差し入れ持って工場の縫子さんのところに行ってますからね(笑)。

――さっきTシャツの話でグラフィックというワードが出ていましたが、〈EXPANSION〉というとオリジナルグラフィックのイメージも強いです。今はどうですか?

実は最近はそっちはそんなに注力していないんです。今は〈EXPANSION〉らしい“形”が作りたいと思っています。〈POST OVERALL〉しかり〈COMME DES GARCONS〉しかり。そういったブランドにはコンセプトを説明せずとも伝わるなにか形、空気感、世界観があるじゃないですか。そういうものを追求したい。ブランドスタートから10年という節目でその辺を追求しています。

――現状〈EXPANSION〉のアイデンティティとはどこにありますか?

絶対にひとつ、なにか語れるポイントがある。それは意識しています。例えばウールのボーダーシャツがあったとたら、ウールリッチウーレンミルズの生地を使っていて、しかも3年前くらいのデッドストックの生地だったり。例えばパーカだったら、通常海外とかアメリカ国内でもLAで作っていたりするんだけど、わざとNYで作っていたり。つまり、買ってくれた人に見た目の良し悪しだけでなく、「あーそうなんだ」っていうフックがあるような。そういうのを重視してモノ作りしているっていうのがあります。

――ぱっと見のツラだけじゃなくて、もう一歩踏み込んだところで。

〈EXPANSION〉が好きな人はきっとそこが分かってくれていると思うんです。別にブランド名が立ってなくたっていい。表面的なことではなく、買って良かったって思ってもらいたいんです。もちろんそれはどのブランドのデザイナーも思っていることなんでしょうけれど……これは言葉で表現するのは難しいんですよね(笑)。

――ところで今、日本ではNYやブルックリンのカルチャーがトレンドの一部となっています。Kirkさんはいわゆる“NY”を意識してものづくりしていますか?

僕はほとんどのアイテムをNYの工場で作っています。それはなぜかと言うと、僕が住んでいるから。つまりすぐ目と手が届くんです。日本で作ったこともあったけど、それでは目が届かないしクイックに手を加えることもできない。だから住んでいる町で作っているんです。僕はね、生地選びにしても縫製チェックにしても、必ず全部自分で行くんです。ちゃんとみんなとコミュニケーションをとっていたいんです。それこそさっきお話ししたように縫子さん一人一人とでも。そういった人たちの助けがあってこのブランドは成り立っていると思っているから。だから僕ね、『自分が〈EXPANSION〉のデザイナーだ!』みたいなのは本当にないんですよね。

――地元に密着することで、リアルなNYの空気感も漂うのではないですか。

それはそうかも知れません。ただやはりNYでつくるとやはり海外で作るよりは人件費と土地の価格コストがかかるわけです。シャツで2万円を超えたりする。そのためのクオリティをクリアすることは相当注力しています。ファッションを作るだけじゃなく、ちゃんと服作りをしなければいけない。当たり前のことですけど、意外とそれをクリアしているブランドって少ないと思うんですよね。だから皆さんにも是非〈EXPANSION〉の服を実際に手に取って見て確かめてもらいたい。そしてみんなが喜んでくれるような服作りをコレからも追求したいですね。

――〈EXPANSION〉はNYのリアルな空気感と細やかな服作り、どちらもフォローできる存在なのかなと思います。
今回はありがとうございました。今後の活躍に期待しています!

左のジャケットは先シーズンもリリースして人気を集めた「CREST WOOD JACKET」。フィッティングはテーラードジャケットと同様のクオリティで、ディテールはビンテージのハンティングウェア。オールドワークエアを現代的にアップデートした注目作だ。
右のシャツは60年代のUSのワークシャツとドレスシャツの要素をミックスしているのがポイント。ウッドランドカモフラージュのデッドストックの生地を使用し、トップブランドのシャツも手がける熟練のテーラー職人が手がけている。共生地のボウタイも展開。マンハッタンの27丁目にある、熟練の職人揃いの工場にて生産している。
リブニットのキャップはミネソタ州にあるニット工場で生産。アクリル100%

ジャケット¥42,000  シャツ?22,050  ニットキャップ?5,775 /すべてEXPANSION

Hiroshi "Kirk" Kakiage

1974年東京生まれ。91年にニューヨークに渡り本場のストリートカルチャーの洗礼を受ける。新宿の人気店「Jackpot」などのバイヤーを経験した後、97年にアパレルのディストリビューションカンパニー「Seven Summits」を設立。数々のストリートブランドを日本に送り込んだ。2002年に自身のアパレルブランド「Expansion Inc.」をスタート。