グラフィックデザイナー/イラストレーター 大西真平とは? グラフィックデザイナー/イラストレーター 大西真平とは?

グラフィックデザイナー/イラストレーター 大西真平とは?

雑紙ポパイの表紙でもお馴染み!
サインペインター 金子裕亮さんのアトリエ訪問

グラフィックデザイナー/イラストレーター 大西真平とは?

SHIPS JET BLUE

PARCOやLOFTなどの企業とのプロジェクト、雑誌のアートワーク、ブランディングツールの制作など、幅広いフィールドで独自の世界観を展開するグラフィックデザイナー/イラストレーターの大西真平氏。この秋冬はSHIPS JET BLUEでも、氏がイラストを手がけたキャラクターニットを展開中だ。決して奇抜ではないけれどなんだか気になるその世界観は、一体どのようにして生まれているのか!? 作風同様、ご本人もインディペンデントで自由な空気の漂う方でした。

“左利きの人は芸術性が高い”。なぜなら感性を司る右脳を使うから。なんていう、もっともらしいけど科学的根拠なんてどこにも無い話をどこかで信じている人、多いのではないでしょうか。でもインタビュー時に大西さんが左利きだと知った時は「やっぱりそうなのかも」と思った筆者。対峙した時に直感的に分かる“普通じゃなさ”。大西さんはそんなものを感じさせる人でした。
父親は美大で建築を、母親は声楽を学んでいたということもあり、小さい頃から自分も美術への道を進むことを自然と受け入れていたのだそうで。


「家庭環境がそうだったので、自分自身がアートの道を進むことは中学生くらいから当たり前のような感じで思っていました。それが格好いいんだって素直に思っていたんですね。親にも小さい頃から絵を書けといつも言われていて、上手い上手いといわれると子供って調子に乗るじゃないですか。だからこの道を進むことに疑問を持ったことはなかったです」。

大学は東京造形大学に入学。油絵科を専攻。かなり本格的にアートを追求していた。

「コマーシャルアートではなく、ファインアーティストになりたくて勉強をしていました。現代美術がすごく好きで、自分も作家になりたかったんです。作品を発表して、芸術を研究する。そんな道を進むつもりでした」

しかし今では数多くの企業のアートワークを手がけるように。そのきっかけとなったのはなんだったのでしょうか?

「現実的な話なのですが、やはりお金を作らなくてはいけないなと思ったんです。生活のこともありますし、作品作りに没頭して研究ばかりを続けているわけにもいかない。生活の基盤を固めながら、その上でやりたいことをやれる環境を作らないとって思ったのがきっかけですね」。

確かに現実的ではあるけれど、現実だからこそとても重要なこと。アーティストやクリエーターとして活動している多くの人が多少なりともぶつかる壁だ。そんなターニングポイントでも大西さんは柔軟な姿勢で対応。ファインアーティストではなく、プロのクリエーターとしての仕事をスタートさせることになった。

「大学時代の先輩とアーティストユニットみたいなものを作ろうということになったんです。始めたのは絵などを描いてインテリアショップに卸す仕事。続けているうちに、デザインの仕事やイラストの仕事も増えてきて、現在のような基盤が出来上がったという感じです」。

その過程で方向性の違いもあり、そのアートユニットは解散。数年前からは一人で活動を続けている。ところで、アーティストとしての活動から企業のためのデザインの“お仕事”へとシフトするには、誰しも何かしらの葛藤はつきもの。“やりたいことをやる”のと“やってほしいことをやる”とでは大きなギャップがありますが、その辺はどうだったのでしょうか?

「特に葛藤はなかったですね。そこはわりと自然にというか、それはそれっていう感じで。それか、僕が根っからのアーティストではなかったからかもしれませんね。なんて言うんだろう、今でも現代美術追いかけている人ってやっぱりかなり変わった人が多いんですよ。そういう人を見ていて僕はそれを続けられる人ではないなって途中で思わされたのもあったのかもしれませんね」。

滑り出しは好調。デビューした当時はTシャツのグラフィックデザインなどを多く手がけていたそう。

「SHIPSとはその頃からのお付き合いです。ほかにはビームスTやユニクロ、イオンなんかともお仕事をさせてもらっていました。こっちがデザインを提案することもありましたし、作ってほしいと言われたデザインをそのまま形にしたりする仕事もありました。いろいろですね」。

PARCOやLOFT、雑紙NYLONのアートワークなど、今では目立つ仕事も増えてきた大西さんだが「まだまだユルくやっています」とご本人。といってもきた仕事はほとんど断らずに受けているスタンスだけに、多忙を極めることもしばしば。

「今、毎週国連大学前で開催されているファーマーズマーケットの雑誌も作っていて、そのアートディレクションもさせてもらっているんです。印刷で余った紙とかをリサイクルして作ったりしている雑誌なんですが、そういった活動の広がりもあるので、ちょっと手伝ってくれる人を入れないといけないかなとか、すこし考えたりもします」。

今では様々な仕事を請け負う大西さん。基本的にはクライアントに喜んでもらうのが一番で、そのためにプロジェクト毎に使う“チャンネル”を使い分けているのだとか。

「僕は3つくらいチャンネルがあると思っていて、それは@本当に自分がやりたいことだけをやる、A完全にクライアントの意向に添う、B自分もクライアントも納得できるようトコトン話し合いながら進める、の3つ。Aは俗にいうライスワークなのかもしれないですが、それはそれで大事な僕の仕事。自分のエゴで『コレしか美しくないんだ』みたいにやっている人って、僕からするとファインアートの人と一緒なんですよね。僕は僕とクライアントのためにどこで折り合いをつけて取り組んでいこうかっていう入り口から入るので。一人で仕事を始めた時に思ったことは、自分もそれなりにいいと思って作品を作りながら、クライアントも喜んでくれて、それを見たエンドユーザーも楽しくて、っていう極シンプルなこと。そういうのが素直に嬉しいですよね」。

“エンドユーザーも楽しくて”。大西さんの取材をしていく中で思ったことは、何を作るにしてもあくまでエンドユーザーのことをどこかで意識しているのだなということ。それが自由度の高いお仕事だとしても、決して独りよがりなことにはならない。作品のための作品ではなく、なににおいても目的があってそこに落とし込む。それがモチベーションの中心にある。

「ある程度枠があること、目的があることはとても大事です。多分僕はお題を投げてもらってそれを投げ返す、キャッチボールというか、そういうコミュニケーションが好きなんだと思うんです」。

〈SHIPS JET BLUE〉とのコラボレーションニットも、そんなコミュニケーションの中から生まれたものだ。

活躍の場も量も広がりつつある大西さん。これから先の展望を聞いたところ、「特に大きくするつもりはない」とのこと。守備範囲はあくまで自分の手の届く範囲。


「多分一生ニッチな存在でいるんじゃないかな(笑)。感覚的に自分ってそういう人なのかなって思うんですよね。反面、もっとメジャーになってもいいのかなとも思います。自分の名前を有名にするということではなくて、仕事のジャンルとして。今僕がやっている仕事は社会の中でいうとものすごくピンポイント。本当に狭いところをターゲットにした、そこにいる人たちが満足すればそれでいいみたいな仕事が多いので。そういう意味でもっとメジャーな仕事もやってみたいなとは思っていますけどね」。

とはいえ無理のない範囲で、自然なご縁があれば、と付け加える大西さん。個人的な活動にしても、なにかおもしろいことを仕掛けるというよりも、フットワークを軽く、やりたいと思ったことをクイックに形にする方が性に合っている。

「ぱっとした思いつきでいろいろ作りたいんです。いろんな人とお付き合いがある中で、思いついたことをフレキシブルに形にする。そういうのは辞めたくないですね。フットワークの軽さと言うか、瞬間瞬間に生まれる「その企画おもしろいね!」っていう勢いとか突発的な発想を大事にしたい。そういうのってなかなかできないですから」。

現在進行形で進んでいるおもしろいプロジェクトもある。

「今度、保育園をまるまる作るということになっていて。そのブランディングツールからすべて作らせてもらうんです」。

ブランディングに関わる場合、ただ感性に任せただけのデザインではだめ。ある程度のロジックや計算が必要になる。


「相手の意向をヒアリングして、マーケットの傾向なども考慮しながら、ロジカルに組み立てていきます。僕、ユルく作っているように見えて、実はめっちゃ細かく作っているんですよ。手書き風に見えるものも実は数値を出してバランスを計算していたりとか」。

単なる思いつきじゃないからこそ、創り出すものには説得力が隠れている。アーティスティックな感性とプロフェッショナルな仕事術。そのバランスの良さが、大西さんの魅力なのかもしれない。ちなみに〈SHIPS JET BLUE〉のニットにはどんな計算が隠れているのでしょう?

「いや、コレは完全にユルく作らせていただきました(笑)」

ニット 各?11','550/SHIPS JET BLUE

「これは縦横の構図のバランスを考えながらだいたい20個くらいのイラストを描いて、その中からバイヤーの方と一緒に4つ選び出しました。ワニ、キツネ、ティラノサウルス、リンゴの妖精。これらはすべて僕が作ったオリジナルのキャラクターの“ディベアー”がベースになっているんです」。
彼岸(ひがん)と此岸(しがん)を行き来する黄泉(よみ)の国の使いDEVEAR(ディベアー)は、大西さんが作り上げたキャラクター。浮世絵的な世界観とアメコミ的なカルチャーを合わせたという独特な雰囲気が見るものの記憶に残る。

大西さんがアートディレクションを手がけるファーマーズマーケットの雑紙「NORAH」。広告などを一切入れてない、読み応えのある一冊になっている。ファーマーズマーケットにて購入可能。

大西真平

アーティスト、グラフィックデザイナー、イラストレーター。1978年生まれ。02年東京造形大学美術学部絵画科卒業。09年11月独立。プロジェクト毎に幅広いレンジのヴィジュアルを制作、落とし込みまで担当する。アパレルブランドのグラフィックや、ブランディングツール、キャラクターデザインなど幅広く活動している。また11年SSよりキャラクターブランド「DEVEAR」を立ち上げる。