スペシャルインタビュー Smith & Hardyデザイナー福薗英貴さん スペシャルインタビュー Smith & Hardyデザイナー福薗英貴さん

スペシャルインタビュー Smith & Hardyデザイナー福薗英貴さん

35thスペシャルインタビュー −Homble Ni?o?福薗芳文さん × SHIPS JET BLUE 田中楽― SHIPS JET BLUEがYOPPYさんの新ブランドを選んだ理由

スペシャルインタビュー
Smith & Hardyデザイナー福薗英貴さん

SHIPS JET BLUE

マルタン・マルジェラやドリス・ヴァン・ノッテンなど、ファッション界の最先端で活躍するデザイナーを数多く輩出してきたアントワープ王立芸術アカデミー。その権威ある学校を日本人で初めて卒業し、現在TAKEO KIKUCHIのデザインディレクターを務めるのが、Smith & Hardyデザイナー福薗英貴氏。彼の足跡を辿りながら、ブランドの源流、そして4シーズン目のコレクションに触れる。


??デザイナーを志したのはいつ頃からでしょうか。東京モード学園で1年学び、それからパリのCREAPOLE(モード学園の提携校)へ進まれていますね。

福薗 高校時代だと思います。当時はマルタン・マルジェラが好きで、彼のコレクションはファーストからずっと見ていました。それはきっかけのひとつと言えますね。あえて国内の学校ではなく海外へ目を向けたのは、いろんな人に着てもらいたい、いろんな人に見てもらいたいという考えが大きいと思います。国内であれば同じ日本人なので視点や感想も僕の推測の域を出ない。逆に海外の人たちの感覚は僕にないものなので、彼らがどのように思うのかに強い関心がありましたね。

??パリへ渡ってすぐにアントワープ王立芸術アカデミーへ進んでいますが、それはなぜ。

福薗 パリの学校ではあまりにも日本人が多すぎて…。1クラスの半分は日本人といった状況で、海外で学んでいる気がしなかったんです。それで、どうせなら日本人のまったくいない所に行きたいと考えました。マルタン・マルジェラがその学校の出身だったことも知っていましたが、何よりまだ日本人がそこへ行ったことがないという事実が、アントワープへ目を向けさせた大きな要因ですね。

??卒業はかなり難しく、入学者数の1割も満たない時もあるとか。その中で福園さんはストレートに卒業されています。かなり優秀だったとお見受けしますが。

福薗 とんでもないですよ。もうフラフラしてました(笑)。学校へ行っては夜飲みに行く、その繰り返しでしたね。学校が本当に忙しいので、それだけだとちょっと精神的に厳しかったですから。とにかく寝る間も惜しんで飲みに行っていました。だから、学校の友達よりも学校外の友達の方が多かったですね。みんな、本当に面白いやつらばかりでした。

??卒業後に帰国していますが、そのまま海外に拠点を置いて活動するという選択肢もあったのでは。

福薗 もちろん、ヨーロッパで活動していくつもりではいました。ただ、日本のファッションシーンにもすごく興味をもっていたのも事実です。日本のファッション雑誌をよく送ってもらっていましたから。当時は、新しいストリートブランドがバンバン出てきていて、なぜこんなにたくさんのブランドが出てくるんだろうと不思議でしょうがなかったんです。まず海外では考えられないことですから。ヨーロッパでは、ファッションという分野であまり若者がムーブメントを起こすことは少ないんですね。それもあって卒業後に時間があったので一度日本へ戻ってみたんです。そこでお会いしたのがスタイリストの熊谷さん。彼に「日本ではどのようにしてブランドができるのか」を詳しく教えていただきました。そのうち「それじゃうちでやってみる?」と誘っていただいたので、あちらの家をすべて引き払って帰ってきました。

??その後2004年にWHEREABOUTSをスタートさせています。元からそのビジョンはあったのでしょうか?

福薗 ブランドをやりたいとは思っていましたが、WHEREABOUTSに関してはその時所属していた会社から突然言われたんです(笑)。メンズでもレディースでもどちらでもいいと。実際、学校ではウィメンズしかやってこなかったので、メンズ服をやってみたいなとは思っていました。ただ、このブランドに関しては基本となるコンセプトを作るのではなく、シーズン毎にテーマを変えながら作ろうと考えました。なので、シンプル基調のモードなコレクションもあれば、ヒッピーのようなコレクションも作っています。とにかく、その瞬間で感じたものを形としていくイメージでしたね。


??Smith & Hardyを立ち上げるに至る経緯を聞かせてください。

福薗 独立を機にWHEREABOUTSからは身を引きましたが、その後もしばらくはWHEREABOUTSに携わっていたんです。その時に、よく目を掛けていただいた取引先がありまして、そこのリクエストで個人的に服は作っていました。それがSmith & Hardyの始まりでしょうか。ただ、その時は本格的に立ち上げようと思っていた訳ではなかったんです。TAKEO KIKUCHIのデザインディレクターでお声掛けいただき、武先生(菊地武夫氏)と仕事をご一緒する中で、またシーズン毎に服を作ってみたいなと思うようになりました。下地は以前からあったとは思いますが、実際の発端はやはりそこからになると思います。

??そのSmith & Hardyのコレクションは、やはりテーラードが目につきます。中でもダブルブレストやピークドラペルなど、伝統的かつ構築的なモノが多い印象ですね。

福薗  個人的な嗜好ももちろんありますが、堅いイメージのものでも今っぽく普通に着られるということを提案したいとは思っていますね。

??今季はどのようなテーマを落とし込んでいるのでしょうか。

福薗 “青”ですね。様々な青を今季は表現しています。

??となれば色入れには特に気を使ったのでは。

福薗 生地の段階でいろいろ工夫してはいます。例えば、今回のコレクションで発表しているハウンドトゥースのジャケットに織り交ぜているブルーの糸は、インディゴ染めした糸なんです。だから、着ていくとデニムみたいに色が落ちていくので、表情に変化が生まれます。他にも、コットンナイロンやレザーをインディゴ染めしたものもあります。

??今回のコレクションではシルエットも印象的でした。

福薗 シルエットには特に気を使いましたね。中でもパンツが特徴的かもしれません。裾に向かってテーパードしているシルエットですが実寸で言えばわりと太め。ただそうは見えないバランス感が特徴です。普段から自分の作る服を着ていますから、脇下、身幅、着丈などあらゆる部分で様々な感想や発想が生まれます。自分の作った服に対して客観視できるので、そこで得たものを次シーズンのコレクションに生かすようにしています。

??そのこだわりとクオリティから注目度が徐々に高まっていく中で、Smith & Hardyの今後のビジョンをどのように考えてらっしゃいますか。

福薗 ビジネス的な観点はもちろん重要かもしれませんが、そこに比重を置いている訳ではありません。とにかく、これからも感性を大切にしていきたいとは思いますね。自分の好きな服、着たい服を作ろうと思っています。今の男性がこういう服を着たらカッコいいだろうな、自分でも着たいなというモノをずっと作っていけたらいいですね。なので、やはり自分の好きなテーラードは今後もキーになっていくと思います。


ベーシックなボーダートップスも、生地をななめにとることで新鮮な印象に。ほんの少しのひねりでアイテムに斬新さを加える、福薗さんらしいデザインだ。フロント、バックともに裏地中央に補強テープがあしらわれているのも特徴で、そのアタリが表面に出て表情に変化を添えている。

?18','900/Smith & Hardy

大胆にカラーコントラストを効かせたカラーパネルが今季的。シンプルでシックなムードを損なわずに、トレンド感のある高いデザイン性を実現させた秀作だ。カラーパネル部分はマットな色ではなく、杢調の生地というのもポイント。さり気なく表情に深みを持たせている。上質感のあるさらりとした生地は肌触りも抜群。

?9','240/Smith & Hardy

シンプルな切り替えデザインで定番のシャンブレーシャツをアレンジ。胸ポケットの天地にきっちり合わせたギミックがユニークだ。また特筆すべきはその縫製のクオリティ。ベーシックなボックスシルエットだが、丁寧で端正な仕立てがワンランク上のシルエットの美しさを演出している。

?23','100/Smith & Hardy

コーデュロイ素材の5ポケットパンツは、本物さながらのヴィンテージ感がポイント。くったりとした質感でありながらも、縫製をしっかりし挙げているので上品さを損なわないところがさすがだ。シルエットは適度に細みで膝上丈。理想的なバランスに仕上げている。

?23','100/Smith & Hardy

上質なウールを使用したジャケットは、織りに工夫をすることで自然なストレッチ感も実現。ルックスの美しさと着心地の良さを高次元で両立しているところが嬉しい。トレンドの細みなWブレストのジャケットは、ボタンを開けてきたときもフロントが崩れないようにストラップが付いている本格仕様。肩パッド入りのややクラシカルなアプローチも今季的だ。また通常は左に付いている胸ポケットが右についていたり、ラペルしたにポケットが隠れていたりとしかけが随所に。隙のないクオリティとはまさにこのことだ。

?82','950/Smith & Hardy

クラシカルなダブルのトレンチコートも、合わせを浅く、シルエットを細く仕立てることでモダンなスタイルにモディファイ。落ち感のある生地を使用しているので着た時に表情が生まれ、定番のアイテムでもフレッシュなイメージで着こなすことができる。それでいて飽きること無く、定番として長く愛用できる側面ももつ逸品だ。

?93','450/Smith & Hardy

福薗英貴

1976年 熊本出身
1998年にアントワープ王立芸術アカデミーに入学。2004年にWHEREABOUTSを設立。独自の世界観を落とし込んだ数々のコレクションを発表し、各シーンから高い評価を獲得する。2007年に独立後、2008-2009年の秋冬よりTAKEO KIKUCHIのデザインディレクターに就任。そして2011年、秋冬コレクションからSmith & Hardyを本格始動。