雑誌ポパイの表紙でもお馴染み!
サインペインター 金子裕亮さんのアトリエ訪問
雑誌ポパイではタイトル文字を手がけ、「POPEYEと考えるHandcrafted Life 手を動かそうよ 展」にも参加。ARTS & SCIENCEではDOWN THE STAIRSのサインも手がけるサインペインターの金子裕亮さんが今話題だ。しかもこの秋はFRIENDSHIPSという企画でVOTE MAKE NEW CLOTHESとSHIPS JET BLUEのコラボレーションTシャツもデザインしてくれているのだからなお注目! 金子さんのアトリエで、サインペイントを始めたいきさつとその魅力について伺った。
――まずはサインペインターとして活動するようになったいきさつから教えていただけますか。
金子 もともと僕はエディトリアルデザインをしていたんです。多摩美術大学を卒業してデザイン会社に就職。主に雑誌やカタログのデザインなどを手がけていました。もともとやりたいことでもありましたし、楽しくやらせてもらっていたのですが、30歳になる前までには自分でなにかやりたいと前々から思っていて。で、せっかくずっとエディトリアルデザインをやってきたので、文字を使ってなにかおもしろいことができないかなと。それでパソコンを使わずに手作業で文字を描き始めたのがきっかけです。
――もともとサインペイントのことは知っていたのですか?
金子 昔はグラフィティの真似事みたいなことはしていました。でもサインペインターという存在はやり始めるまで知らなかったんです。最初は単純に遊び感覚で文字を描いていて、後になってそれをサインペイントと呼ぶことを知ったくらいで(笑)。
――お仕事を辞めてからサインペイントを始めわけですよね。
金子 ちょこちょこ描いてはいたんですが、本格的サインペイントとしてやり始めたのは仕事を辞めてからですね。最初の頃は仕事なんてなかったので、友人の展示会に飾る作品を友人のイラストレーターたちと一緒に作ったりしていました。
――仕事としてというよりは、アーティストとして活動していこうという感じだったのですか?
金子 サインペインターはもちろんアーティストとしても捉えられますが、あらかじめ決められたデザインを形にする職人的な側面もあるんです。自由に描いてくれということも稀にありますが、僕はどちらかというと職人よりのような気がしています。例えばアメリカのサインペインターに年配の方が多いのはそういった側面が強いからかもしれません。でも最近は若い人たちもサインペイントに注目しだしたみたいですね。サンフランシスコのニュー・ボヘミア・サインズ社にも若手が集まってきていると聞きました。
――サインペイントは映画にもなるほどアメリカでは人気ですよね。やっぱり本場はアメリカなんでしょうか?
金子 もちろんヨーロッパにもサインペイントの文化はありますが、そっちはより装飾的で渋い感じです。僕はどちらかというとアメリカ的な、しかも西側のちょっとゆるめのサインペイントが好きなんです。スーパーの窓とかランドリーにさらっと描いてあるようなカジュアルなものが。
――最近はちょっとしたDIYブームがあって、手作業のおもしろさを見直す傾向にありますよね。そんな中でカジュアルにできるサインペイントが注目されているんだと思います。これをパソコンでやろうと思ったら結構知識とか必要になりそうですもんね。
金子 そうですね。でも実は僕は結構デジタルは使っているんですよ(笑)。
――そうなんですね。ちなみに作品は具体的にどういうプロセスで出来上がるんですか?
金子 まずは方眼紙などに手で描いてデザインを決めます。いくつかパターンが出来上がったらそれをスキャンしてクライアントにメールで送ってチェックしてもらいます。デザインが決まったら次は色を決めるのですが、僕はPCを使ってデザインに色を乗せていくんです。で、最終的に色まで決まったら、現場に行ってペインティング。たたき台をデータにしておけば、出力サイズも自在。いくつかサイズを持っていって、現場にぴったりのサイズを選ぶこともできるので便利なんですね。
――なるほど。でもやっぱり手じゃなきゃ表現できない部分も多いですよね。
金子 そうですね。フリーハンドで描くからこその味もそうですが、ペンキがちょっと禿げてきたり、ゴールドリーフが日に焼けてきたり、そういうのがまたいいんですよね。看板がお店と一緒に年をとっていく。その経年変化もまたサインペイントの醍醐味なのかなって思っています。
――インスピレーションソースはなにかあるんですか?
金子 特にはありません。強いて言えば描く文字や言葉からインスピレーションを得ています。例えば“SHIPS”だったら、SHIPSの雰囲気がより具体的に表現できるような。なので、文字を描いているというよりは、絵を描いている感覚に近いですね。
――例えばSHIPSだとどれくらい時間がかかるんでしょうか?
金子 ちゃんと作るのであればそこそこ時間はかかりますね。実は描くこと自体はそれほど時間はかからないんですよ。それこそ3、4数時間あれば。ただ、僕の場合デザインを決定するのに時間がかかります。まずはSHIPSのイメージを膨らませながら、デザイン画をいくつか描いて、その中からいいと思うものを選び出して、ブラッシュアップさせていく。この作業に一番時間がかかります。現場でデザインするサインペインターもいますが、僕はデザインには時間をかけたいんです。
――その辺はやっぱり、もともとグラフィックデザインをやっていた金子さんらしいスタンスですね。最後に今後の展望ややってみたいことなどがあれば教えていただけますか。
金子 オフィスを引っ越したばかりなので、まずはトイレの看板を作るのが直近の僕の使命です(笑)。後は、友人のつてで嵐山にある大きな土地を借りることができそうで、そこでみんなでなにかできないかって言う話はしています。いろんなアーティストやクリエイターがまわりにいるので、彼らと焦らずじっくり構想中です。
――楽しみにしています。ありがとうございました。
金子さんがデザインを手がけたVOTE MAKE NEW CLOTHESのビッグTシャツ。もちろんすべて手書き。近くで見ると微妙にタッチに味わいがあるのが特徴だ
¥7','140 / VOTE MAKE NEW CLOTHES × SHIPS JET BLUE
金子裕亮
DAMKY SIGNS主宰。1982年 東京生まれ。多摩美術大学を卒業後エディトリアルデザイン会社に就職。エディトリアルデザイナーとして活動した後、サインペインターに転身。ショップのディスプレイやロゴ、看板からTシャツまで、その活動は多岐に渡る。