35thスペシャルインタビュー ―Pelleternoデザイナー 長谷川あかねさん × 長岡めぐみさん―
「世代を超えて長く愛される靴作りをしています」
Khajuで人気のシューズブランド“Pelleterno”。ブランドとしては8年目となるこのブランドは、デザインはもちろん、機能性にもとことんこだわって、一度履くとその履き心地にリピーターも続出するほど。今回はそのデザイナーのお二人にとっての“STYLISH STANDARD”について伺いました。
??Pelleternoにとって、STYLISH STANDARDとは何ですか?
長岡 スタイリッシュって粋だったり、何か一本筋が通っていることだと思うんです。ファッションはもちろん流行も大切だけど、それだけじゃなく自分たちが本当に履きたいものを作るっていうことを大切にしています。それが、私たちの一本の筋というか、私たちにとってのスタイリッシュにつながると思います。靴の企画を考えるとき、普通はトレンドをリサーチするデザイナーさんが多いと思うんですが、私たちは来年自分たちが何色を履きたいか?っていうところから始まるんです。
長谷川 しかもそれが偶然同じ色だったり、履きたい靴のデザインがほぼ二人一緒なんです。だからいつも企画会議はさくさく進む感じ。二人の好みが本当に似ているから、プライベートでも洋服がかぶったりとかよくあるよね。
長岡 ほんとだね。どちらか一方の好みだけが変わってしまうとブレてしまったりするだろうけど、好みが変わるときも同じように変わって行くのでブレないんです(笑)。
??ブランド名でもある、”Pelleterno”はpelle(革)とeterno(悠久)を組み合わせた造語と伺いましたが、これもスタンダードに通じますよね。
長岡 そうですね。ブランドの意味は革の靴を修理しながら大切に長く履いてもらいたいという願いがあって。長く履いてもらうためには、履き心地がよくないとダメ。だから木型もオリジナルで作って、ステッチの入れ方や中敷きにもこだわっています。かわいいだけじゃなくて、機能性があるっていうことにこだわっていますね。
長谷川 二人とも靴が大好きなので、たくさんの靴を買っちゃうんです。でもストックできるところって限られるじゃないですか。そのとき残っていくものって、ずっと愛用して残っていく。新しくても、履いてテンションが上がらないものは捨ててしまうけど、履くと幸せな気分になるとか、テンションが上がる靴は古くてもずっととっておく。私たちにとってのスタンダードって、着回しができる、ベーシックでシンプルで何にでも合うことではなくて、ずっと長く大切に履けるもの、宝物みたいにクローゼットに入れておけるものなんです。
長岡 最終的には、お客様がおばあちゃんになっても、お孫さんがクローゼットを見て「これかわいいからもらっていい?」って言われるような、世代を超えて愛される靴になりたいんです。
??靴を長く履くのってなかなか難しいですよね?
長谷川 定期的に修理したり、革はクリームを塗ってあげるだけでもかなりきれいになりますよ。うちはヒールなどの修理のほかに、クリーニングもしていて。
長岡 最近、7年前のファーストシーズンのパンプスを修理に出してくださったお客様がいて。でも、すごくきれいに履いてくださってて驚きました。もちろん革なので、お客様の足の形には変わっているけれど、何度も何度も張り替えて大切に履いてくださっていて。そういうのを見るととてもうれしいです。
長谷川 電話やメールで修理についてやりとりをしていても、お互いの笑顔が見えてくるんですよね。修理っていうと、面倒くさいとか汚いっていうイメージがすごくあるんですけど、私たちは喜んでやらせてもらっています。アフターケアをちゃんとするっていうのもうちのブランドの強みだし、みなさんそこをかってくださっているので、手を抜かずにやりたいなって思ってます。特に中敷きは、一度別のところに修理に出したけど、やっぱりうちで張り替えてほしいっていうお客様もいるほどです。
長岡 Pelleternoの中敷きは本革で素揚げ加工っていう、毛穴を残す加工をしているんです。普通はつるっとした仕上げにするためにラッカー仕上げという、全部毛穴をつぶしてきれいな色をつけることが多いのですが、うちは革の質感と毛穴を残した加工にしているので、そこで汗を吸収してくれる。革が呼吸をするのでムレにくいし、そこに空気が入って、履いたときにふわっとやわらかいんです。工場の職人さんには手間もかかるし大変だからやめてくれって言われるんですけど(笑)。「そこだけはすみません、お願いします!」 と言ってこだわっています。
??お二人にとっての永遠のスタンダードアイテムってありますか?
長岡 これもまた二人でかぶっているんですけど、トレンチコートなんです。
私が小さい頃、父がアクアスキュータムのトレンチを着ていて。かっこいいって言って憧れていたら、20才の誕生日に買ってもらって。以来、とても大切に着ています。長谷川はお母さんにもらったヴィンテージのバーバリーのトレンチをずっと着ていて。世代はもちろん、私の場合は父だから性別も超えて、同じものをかっこいいと思ってずっと着られるっていうのがすごいなって思うんです。トレンチコートはもともと軍服だから、機能性がすばらしくて無駄がない。私も靴をデザインするときに、何かディテールに意味があって機能性があるものをデザインしたいって思うんです。
長谷川 私のトレンチも母が着ていたので50年以上着ているんですけど、すごく状態がよくて。クリーニングをまめにして、大切にしています。クリーニングから戻ってきても、クローゼットにしまわず自分の部屋の見えるところにかけておいてあるくらい、一番大切な洋服ですね。いつかは自分の息子のお嫁さんなり、次の世代に渡したいなって思っています。
長岡 靴も洋服もそういう意味では同じだと思うんです。私たちもそうやってずっと長く愛されて、見ているだけでもテンションがあがる、それくらい思い入れのある靴を作っていきたいですね。
長谷川 このシューズはメンズのドレスシューズを作っている工場で作ってもらっています。靴ひもを通すハトメが表に付いているのは普通なんですけど、これは裏側にもついているんです。この仕様はメンズではよくありますが、レディースではめずらしいんですよ。何度紐を通しても革が痛みにくいんです。また、中敷きも一番上の革と底の革の間に、普通だと堅いボール紙みたいなものを敷くのですが、これは革を使っています。その分ムレにくくて、靴も傷みにくく、長く履けます。レディースのシューズではこういう手間のかかることはあまりしないんですけど、やっぱり長く履いてほしいのでこだわりました。
レースアップシューズ?27','300/Pelleterno
長岡 このストラップパンプスは新デザイン。普通のパンプスより、ストラップが1本あるだけで、履き心地が全然違います。今シーズンはロックテイストな靴が履きたくて、スタッズを使いました。黒だとちょっとハードすぎるけれど、やさしい色合いのものが欲しいと思い、このカラーリングにしました。
パンプス?31','500/Pelleterno
長谷川 こちらもメンズのドレスシューズ工場で作ってもらったもの。靴の表面はコーデュロイ風に型押ししたオリジナルのレザーを使っています。全体の色味がマットなので、靴の裏はマットではなく、磨きをかけてもらって…靴の裏なんて誰も見ていないとは思うんですけど(笑)、職人さんとこだわって作っているので、ぜひ見て欲しいです。
ショートブーツ?44','100/Pelleterno
長岡 これはPelleternoの定番アイテムになりつつある、通称ナナメブーツ。履きやすくてバイヤーさんに「スニーカーを超えた履きやすさ」と言われました。ぎりぎり立つくらい斜めなんですけど、履くとき斜めだとすっと脚が入って履きやすいんです。
長谷川 革に空気をいれて膨らませているので、革自体がものすごく軽いんですよ。丸めてスーツケースにも入れられます。
長岡 軽いと同時にあったかいんですよね。ヒールも3cmくらいで歩きやすい高さです。
ブーツ?48','300/Pelleterno
長谷川 あかね
美術大学卒業後、広告代理店で企画・デザインに携わる。グラフィックデザインの傍ら、大好きだった靴のデザインを始め、その後、本格的に婦人靴の商品開発の仕事をスタート。2005年、自らのブランド『Pelleterno』を立ち上げる。
長岡 めぐみ
服飾専門学校にて洋服のデザインを学び、在学中にイギリスの服飾学校へ留学。洋服を学びに行ったはずが、英国で靴の奥深さに魅せられる。卒業後、日本で婦人靴デザイン会社に入社し、日本企画・海外企画生産(ヨーロッパ、アジア)の商品開発全般を担当。2005年、『Pelleterno』の立ち上げに携わる。