35thスペシャルインタビュー ―スタイリスト 袴田能生さん―
「本来、ファッションは幸せの一部なんです」
「STYLISH STANDARD」をテーマにお話しを伺うにあたり人選を考えていたところ、SHIPS JET BLUEのプレスが真っ先に思い浮かんだという袴田能生さん。現在は、アーティストやミュージシャンのスタイリング、舞台衣装など多岐に渡って活躍している人気スタイリストだ。現代社会の問題から、内面の話などいろいろと出てきて、おもしろいインタビューとなった。
――いきなりですが、「STYLISH STANDARD」と聞いて最初にイメージするのはどんなものですか?
袴田 「美味しい豆腐、作ってます」みたいなことじゃないですかね。STYLISH STANDARDって明確な意味があるようで実はなく、どんな時代にも変容できる都合のいい言葉だなと思うんですね。だから、ファッションでいえば、生活における幸せの一部である洋服が、どう存在するかってことだと思うんです。
男性の場合、ひとつのスタイルを愛したら愛し続ける人が多いですよね。好きなものを使い続けたり、好きなものを食べ続けたりね。スタンダードっていうのは個人が成長する中で生まれるものだから、それを作っていかないとおもしろくも何ともない。自分の好きな味っていうのはいろんなものを食べ続けた結果であるわけですし。
いま、時代的にモダンが終わり、ポストモダンが終わり、社会学的には古典期に入っているわけですよね。そういった意味を含めて、歴史の先人たちが作り上げた素晴らしいもの、長く残ってきたものを実際に手に取って、カラダに入れて、消化して、自分のカタチを作るのが男のスタンダードだと思いますね。スタイリッシュは、そんな自分の気持ちを引っ張ってくれるものだと思います。
――スタンダード探しをするにあたって、若い人にはいろいろと挑戦して欲しいと思うんです。10年後に自分の写真を見て恥ずかしくなるような服装もまた大事だったりしますよね。
袴田 そうですね。本当なら洋服って生活を潤すものというか、楽しくするもの、感動するもののハズなんですよ。でも、そうなっていないのは、売り上げ重視になってしまっている社会の責任もあると思うんです。若い子にとっては自分たちで古着をリメイクしたり、試行錯誤する機会が増えていいのかもしれないですけど、そもそも後手後手に回っている悪循環をどうにかしたいと思いますね。お店には、もっと先に仕掛けて欲しいという希望がある。SHIPSも大変だとは思いますが、ある程度の規模があるからこそできることもあると思うんです。Acycleのようなおもしろいコンセプトショップがあったのに、それを続けられなかったことは残念ですね。そういうふうに尖った部分(店)がなくなると、洋服も尖れる場所がなくなって、悪循環が生まれてしまいますよね。とはいえ、どうすれば解決できるのかわからない状態ですけれども。ただ、夢を売る立場の人が夢を忘れてしまうのは一番いけないし、やりたいことをやるべきだと思います。
――袴田さんはスタイリングをするにあたって大事にしていることは何ですか?
袴田 トレンドは薄く意識している程度です。ブランドに関しても、どのブランドが好きというのはそんなになくて。それよりも、そのブランドが考えている方向性とかに共感していることが多いですね。そこから生まれたモノに、どれだけ情熱が入っているかに共感して、それを扱わせて頂いている感じです。そもそもスタイリストという仕事は、そこに問題があるからいるわけで。自分がどうしたいという気持ちよりも先に、それをどう解決するかが使命なのかなと思います。
――問題というのは、もっと具体的に言うとどういうことですか?
袴田 人がいて空間があるとき、そこにどういった洋服が存在するのがベストなのか。その洋服がどうなることで、社会を大きく変えていくことができるのかを考えるのがスタイリストの仕事だということです。トレンドや時代の気分っていうのは、それを表現するためのひとつの要素に過ぎないんですよね。
――最近はどんなことに興味がありますか?
袴田 いまは社会と教育を勉強していますね。ファッションから離れたところにもまた、ファッションと太い繋がりがあるので、逆に自分のやるべきことが見えてきたというか。自然と人間の関係を含めたうえで、ファッションに何ができるのかってすごく悩むんです。きっと、ファッションというのは人の気持ちを興奮させる、高揚させるくらいのことしかできないんです。でも、それならばなおのこと、人を感動させることに力を入れて行こうと思いますね。
――最後に、SHIPS JET BLUEが好きな若い世代に何かアドバイスをお願いします。
袴田 JET BLUEが扱っているようなメンズカジュアルの歴史は、50年代からずっとストリートや、音楽と密接な関係にありますよね。そんなファッションが生まれた糸口を見つけて、辿っていくことは成長するうえでいいことだと思います。いまはあらゆることが簡単に検索できますけど、そこからさらに自分で進んで行って欲しい。そうやって、自分の引き出しをたくさん持って、自分自身が重いタンスになって欲しいですね。
――本日はありがとうございました。
STYLISH STANDARDをテーマに、秋冬のスタイリングをコーディネートして貰いました。
「中学生の頃に読んだ雑誌で、小山田圭吾さんが“IVYを忘れるとロクなことがない”と言っていたんです。物事のルーツを辿れっていう意味だと思うんですが、それをフッと思い出して。今回は、アメリカントラッドというか、IVYな気分を取り入れながら現代的に崩してみました」
ベスト ?17','850、カットソー ?5','985、パンツ ?12','600、マフラー ?5','985、ブーツ?25','200
/すべてSHIPS GENERAL SUPPLY
袴田 能生
1978年10月10日生 東京出身
本郷高校デザイン科卒
文化服装学院スタイリスト科卒
長瀬哲郎氏に師事
2002年独立 juice所属