中目黒の有名セレクトショップ「1LDK」出身の関隼平さんが手がける「S H」は、普通のシャツだけでなく、Gジャンやフライトジャケットなどもシャツ地で表現するブランド。拠点はパリですが、生地も縫製も日本メイド。丁寧な縫製や美しい生地と、ラギッドな形による新しいバランス感覚でファッション好きから高い支持を受けており、今季シップスでも初展開。買い付けに携わったバイヤー瀬谷が、デザイナーの関さんにこだわりや生産背景、ファッションにかける思いなどを聞きました。
Profile
関隼平
「S H」デザイナー。2008年に1LDKの立ち上げに参加し、全店舗のバイイング、マネージメントを行う。2015年からはパリ店勤務となり2016年に独立。ファッションインプルーバーとして様々なショップ、ブランドの価値を高める仕事を並行して行う。
瀬谷俊法
シップス カジュアル バイヤー。2013年9月にアルバイトとしてSHIPS 原宿店に入社。2015年9月より社員としてSHIPS 渋谷店、SHIPS 恵比寿店に勤務し、2018年3月よりバイヤー職。
Interview
瀬谷 まずは関さんの経歴から教えて頂けますか
関 もともと中目黒にある1LDKというショップに立ち上げから参加して、5年前にパリにお店を作ることになりました。
その後独立してパリでファッションインプルーバーという肩書きでお仕事させてもらってるんですが、その内容は「improve=改善する」という単語が示すように、ファッションに関するいろんなショップさんとかブランドさんとかお手伝いをさせてもらうみたいな感じです。
お店のディレクションだったり、ブランドのセールスだったりとか、クライアントさんが求めている部分をサポートするという形です。
パリがベースなんですけど、年に数回日本にも帰ってきて、日本のクライアントとフランスのクライアントと両方会って、現在は「S H」をやりながら、クライアントサポートも行う、という感じです。
瀬谷さんと会ったのは半年前の展示会ですね。直接ご連絡をいただいて。
瀬谷 はい、僕が飛び込みでというか、「S H」のHPのコンタクトのところから「展示会にお伺いしたいです」とメールさせていただいて、呼んでいただいたのが最初です。
「S H」は最初のシーズンから注目していました。僕がその時に携わっていたのが小物のバイイングだったので、ウエアの買い付けに触れる機会は少なかったんですけどね。その後、ウエアのバイヤーになってから、まず頭に浮かんだのが「S H」でした。
もうひとつ付け加えると、以前いらっしゃった1LDKという存在にもシンパシーを感じていて。一定のコンサバなラインは守りつつも、モダンで洒落てる。まさに、いつも関さんが体現しているファッションの感じだと思うんですけど。とがり過ぎてなくて、気が利いていて、清潔感のあるお洒落って、どこかシップスに近いなと感じています。
今回シップスでは初めての取り扱いになりますので、改めてブランドのことについて伺いたいです。まず立ち上げの経緯とコンセプトから教えていただければと。
関 展示会はこの間で6回目ですから、スタートは2018FWじゃないかな。あまり、気合入れて「満を辞してスタート!」みたいなブランドではないんですよね(笑)。
瀬谷 「今季はこういうテーマでやりました!」とかそういうブランドではないですよね。とはいえ、シャツという大きな柱があります。
関 シャツをブランドとしてやるときに、ドレスシャツのブランドだと襟型が色々あったりとか、生地が色々あったり、そういうフォーマットにあてはめるのが王道だと思うんですけど、ファクトリーブランドでもないし、特に強みがないなかでそういうブランドをやることって難しいだろうなと。 やるんだったら最初は自分が着れるシャツを作ればいいかなと思いつつ、やはりある程度プレゼンテーションが必要だって思ったときに、逆転の発想というか、生地は1種類だけで、いろんな形のものをシャツ地で作ったらどうだろうと。そういう経緯で、ファーストシーズンは5型でスタートしました。
瀬谷 最初の5型ってどれだったんですか。一応、後ろのラックは記憶の中での登場順にしているんですが。
関 レギュラーカラー、ボタンダウン、Gジャン、WEPジャケット(※US NAVYが採用していたミリタリージャケットの一種)、マキノージャケット、これがスタートの5型です。 それ以降はシーズン毎に1型ずつ新しい形をプラスしていき、このFW20で9型になっているんですけど、この間やったばかりの展示会 (21SS)で10型目になります。
瀬谷 Gジャンをシャツ地で表現するというのはたまに見ますが、WEPジャケットやマキノージャケットをシャツで表現するというのは、ほんとに珍しいというか。
関 シャツもですが、アメリカ物が好きなんですよね。例えばフィルソンのダブルマキノークルーザーっていうウールのアウターがあって、原型はめちゃくちゃ格好いい渋いディテール満載なんですけど、着ると重い、堅い、大きいで街着としてはなかなか着れない。 でもシャツ地にすることで、羽織りのシャツジャケットみたいな感じで着れるんじゃないかと。
瀬谷 僕はWEPジャケットタイプも好きなのですが、こんなに腕まくりがカッコよく決まるシャツジャケットってないなと思ってます。フライトジャケットは普通まくれないですから(笑)。
関 デザインというか進め方としては、元となる原型をとどめつつ、どうしたら”シャツ”に持っていけるかな、という考え方でやっています。例えばこの形は、70年代のWEPジャケット、黄緑色のナイロンのカボチャみたいな(笑)フライトジャケットがあってそれがベースになっているんですよ。
ただ、前述のマキノージャケットもそうですが、ハードスペックゆえに原型を着るのが結構難しいアイテムで。それをシャツにしたら面白いんじゃないかって。
シャツだから、ファスナーはやっぱりなしだよね、でもボタンが表に出ちゃっうと今度はシャツっぽくなりすぎて、フライトジャケットから離れていっちゃう。
じゃあ比翼にするといいかというと、デザイン自体が大きく変わってしまう。そこで、ボタンをあえて逆向きにつけているんです。留めにくいんですけど”後ろ向きボタン”という合わせを採用しています。
瀬谷 裾のリブは、ステッチを活かしてシワ感でリブっぽさを出したりとか。袖には原型と同じようにプリーツが入っています。原型の無骨さがありつつ、シャツだからモダンさも出せる。特にステッチの繊細さが効いていると思います。
関 あくまでもシャツ屋さんで作るジャケットなので。ワークものを作る工場にお願いするとまた違った感じになるんでしょうけどね。
瀬谷 これをこの生地で作るわけですから、工場の方もなかなか大変そうですね(笑)。
関 結構苦労して作って頂いてます。なのでシャツの価格にならないんですよね。なるべく価格は抑えたいなと思っているのですが、あんまり大きい規模でやってるブランドではないので、そこは無理に落とそうとせずに、好きな人に買ってもらえればいいかなっていう価格設定にしています。
瀬谷 色はもともと白とブルーとネイビーの3色が定番で、そこにシーズンカラーとして毎シーズン違うものを一色出しているそうですね。
関 生地は高密度の細い糸のオックスフォードなんですね、ぱっと見だとブロードなんですけど。これも「SH」の特徴のひとつです。ルーペで見ないとわからないくらい細い糸を使っているので、洗っていったときの経年変化による凸凹感やふくらみ感があるのがブロードやタイプライター素材との違いです。
あとはシワがそのまま魅力となるシャツが好きで、アイロンがけが嫌いなので(笑)洗いざらしで着て格好いいシャツが作りたかったんです。なのでブロードではなく、オックス地。
瀬谷 スーツなど、アイロンをピシッとかけて着るのも格好いいと思うんですけど、毎日だと疲れますよね。
そこは僕が買い付ける上でのポイントで、気張って着ずに、着古していっても雰囲気がある。そういう長く愛せるアイテムというのを探して買い付けています。
「S H」のシャツは、いい意味で適当に着れるというか、洗いざらしでも雰囲気が出る。これはウィズコロナで求められるエフォートレスなムードにもマッチすると思います。
あとは、名前が「S H」ですし。後ろに「IPS」書いたら、シップスなんですよ(笑)。
関 ゆくゆくは、そういうコラボ的な取り組みもできたら面白いですね。