大阪枚方市に拠点を置くファイブワンファクトリー。日本有数のスーツ専門ファクトリーであり、自社ブランドを含め、そのスーツは国内でも高い評価を受けている。SHIPSでは、通常のスーツよりもワンランク上のものを追求すべく昨年の秋冬シーズンからファイブワンファクトリー製のスーツを提供。今回は、仕掛け人であるドレス企画の矢吹とともに、工場へと足を向けた。
ファイブワンファクトリーは1964年創業のスーツファクトリー。現在はオリジナルブランドのオーダーをはじめ、老舗百貨店や国内屈指のブランドスーツの生産を請け負っている。特に年齢の若い職人さんが多いのが特徴で、職人歴40年を超える熟練工から、新卒間もないフレッシュな才能まで、幅広い年齢層の職人さんたちがもの作りを行なっている。
左が企画の矢吹、右が工場長の岩下信之さん。矢吹の前職時代を含めると、2人は長い付き合い。互いの良さを知る2人に、ファイブワンファクトリーならではのもの作りのこだわりを聞いた。
「圧倒的な柔らかさと着やすさ」
袖を通した時の、柔らかさ、軽さ、着心地の良さ。これが他のスーツとは一線を画すところです。一つひとつの工程に時間をかけているところもさることながら、他の工場と比べて違う点は、中間工程でのハンドアイロンワーク、専門的な言葉を使うと”くせ取り”と呼ばれる工程をとても大事にされているところです。
ほとんどの服は平面である布地から作られていますが、これを湾曲している人間の身体に沿うように、立体的にするためには様々な工程が必要となります。その中でもくせ取りとは、アイロンで水分と熱、圧力を加えることで、布の地の目を適切な方向へ曲げ平面の布地を立体にして膨らみをつけていく作業です。ファイブワンファクトリーさんのすごいところは、裁断から縫製、仕上げのプレスまで、各工程の担当者がこの”くせ取りによる立体”を意識しながら、作業されているところです。これはさながらバトンリレーのようで、少しずつ少しずつ”くせ”を定着させていき、その積み重ねにより最後には身体を優しく包み込むような美しい流線を描くスーツが生まれます。
この意識統一こそが、スーツをとても大事に扱っているということの証左であると思います。
また、訪問するたびに「良い服を作りたい」という強い想いが、工場長をはじめとする各工程の職人さんたちからしっかりと感じられます。歴史とともに積み重ねられ継承されてきた高い技術力と、良い服を作りたいという強い想いかが融合されたモノだからこそ、着用した時のフィット感が他とは全く違う高次元なものになるのだと感じています。
「自由に、それぞれの感性を生かして」
各工程の担当者の理解度、成熟度といったものは当然必要なんですが、それを育むのはルーティン化された作業の連続ではないんです。私たちの工場では各担当者にかなり自由を与えています。どうすれば効率性を保ちながら、美しいものが作れるか。それぞれの担当者に考えてもらっています。迷っていたら、『こうすればどうかな』とアドバイスするくらいで、そこはそれぞれの職人さんを信頼して自由にやってもらっているんです。
たとえば、前身頃と毛芯をアイロンワークで同時にくせを取っていく”芯据え”という工程があります(下の画像が実際の作業工程)。これはスーツの美しさを左右する非常に重要な工程。今は27歳の経験4年目の方がやっています。実は1年目から彼にその工程を任せているんです。『失敗してもいいから、自分で考えながらやってみて』と。彼は今でも毎晩、仕事終わりに出来上がったスーツを一着一着自ら袖を通して、仕上がりを確認してから帰っています。若い人たちにあえて任せることで、彼らも仕事に誇りを持つことができ、結果としていいスーツが生まれるんです。
職人さん一人ひとりの気持ちが詰まったスーツがこちら。袖付けのギャザーはふっくらとしており、腕の動きに追従する作り。また、一見するとシワがよっているように見える上襟と下襟の付け根部分は、着用するとしっかりと鎖骨に沿って収まる。着用した時のラペルの美しさは、顔まわりをしっかりと引き立て、立ち姿に信頼感や威厳を与えてくれることだろう。
SHIPSさんとの取り組みでは、難題も多いですが(この日の取材でも各担当者から多くの”注文”がありました)、その分、その期待に応えてやろうって思いながら作っています。現場では試行錯誤の連続ですが、昨年同様、今年もいいスーツに仕上がっていると自負しています。いい意味で色気のある、男らしいスーツになっていると思いますね。
スーツ各¥92,000(+tax) / SHIPS