味わいのある風合いと滑らかな肌触りの素材、ラフィ。非常にポピュラーな素材で、カットソーによく使われるものだが、生地として成立する以前の綿や糸の選定、そしてその使い方により表情は大きく変わってくる。SHIPS BLUESTOREの企画・生産担当である相原良宣と、これまで国内外の多くのブランドディレクションを手掛けてきたジェネラルデザインの橋爪信之氏がタッグを組み、今春からそんなラフィ素材仕様のカットソーに変革を起こそうとしている。著名な紡績会社である大正紡績の潜入レポートも交えてご紹介する。
「自分はどんな糸を使ってどんな素材を作るのかを提案する立ち位置です」(橋爪)
ーーお二人がいっしょにカットソー作りを手がけるに至った経緯を教えてください。
相原「うちの展示会で橋爪さんと会ったのがきっかけなんですよ。いろいろな素材を一から手掛けてきたというお話を聞いて、SHIPS BLUESTOREのオリジナルをぜひやりましょうということになったんです。最初は、橋爪さんに今現在のSHIPS JET BLUEのオリジナルよりもさらにこだわりのあるものが作りたいと伝えたんですね。それから正式にオファーをしたら、タイミング的にもよかったようで、早速新しいもの作ろうということになったんです」
ーー実際に動き出したのは、いつぐらいからなんですか?
橋爪「昨年の6月ぐらいですね。ちょうどこの企画のちゃんとした概要が見えてきたのがお盆休みぐらいです。だから8月ぐらい。具体的にはそこからのスタートですね」
ーーその紡績をお願いしているのが、大正紡績さんなんですね。
橋爪「そうです。うち(ジェネラルデザイン)がもともとお付き合いのあった大阪の非常に有名な紡績屋さんです。大正紡績さんは綿を買って糸を作るところまでのプロフェッショナル。自分は、その大正紡績さんで紡績することを踏まえつつ、どんな糸を使ってどんな素材を作るかっていうのを考えて相原さんに提案する立ち位置なんですよ。例えばこういうプロセスを踏んだAという素材ならふっくらしていますよとか、Bっていう素材なら肌触りがよくて、コシがありますよとか。糸からのプロセスを説明しながら素材にした状態を相原さんにお見せしつつ、どうしていくかを一緒に考えていったという感じなんです」
ーー素材になる前まで遡って考えていくということなんですね。
橋爪「そうです。カットソーを作る場合、だいだい生地の状態で見てどうするかを考えるのが普通だと思いますが、その前の綿だとか糸だとかっていうところに着目して、吟味していくのがうちのやり方なんですね」
ーー橋爪さんは、何故そんなに糸や素材のディレクションに長けていらっしゃるんですか?
橋爪「僕はもともとパリでクリストフ・ルメールのブランドディレクターを3年半ほどやってたんです。その仕事っていうのが、今回の立ち位置と近いといいますか。デザイナーや企画担当と企画の打ち合わせをして、何か言われたものだけを作るというよりは、イメージを聞いて、それに合わせた素材とか、それに合わせたボタンとか、プリントとかそういうものを僕が調達してテーブルに乗っけて、イメージに合うか否かを精査するということをやっていたんですよ」
ーーそうなんですね。でも日本とは勝手が違う部分もあったんじゃないですか?
橋爪「ルメールブランドは日本製だったんですよ、当時。パリでいろいろ打ち合わせをしたことを自分が日本に持ち帰ってきて、いろんなところで素材を集めて、縫製まで日本でやってたんですね。それでパリで展示会をやるんで、日本で生産をして出荷するとこまで僕が担当していました」
ーーなるほど。日本でそこまでやられていたのであれば、幅広いネットワークもお持ちだということですね。
橋爪「そうですね。ただそのキャリアも、デザイナーが欲しがるものを素材にして用意するという役割でしたので、もっとその前の(綿や糸の)段階から価値のあるものを見つけてくるにはどうしたらいいんだろうとは、ずっと思っていました。それで今の会社であるジェネラルデザインが、アパレル事業部を立ち上げるタイミングで入社したんですが、そもそも紡績会社とお付き合いのある会社でしたので、綿や糸までこだわった提案ができるようになったんですよ。うちの強味はそういうところですね」
「一貫した物作りをスタッフにもお客さんにも伝えていきたいんです」(相原)
ーーそういう経緯があったんですね。そんな橋爪さんといっしょに相原さんが目指すSHIPS BLUESTOREのカットソーとはどういうものなんですか?
相原「スタッフも含めて純粋に着たいと思える物を、まずは純粋に作りたいということが前提にあります。スタッフがいいものだと思ったものじゃないと、なかなかお客さんにも伝わりにくいと思うんですよ。生地に使用しているラフィ素材は、ポピュラーではあるんですが、橋爪さんというフィルターを通すことで、本当にいい物に仕上がっていますし、それをしっかりと認知させたいですね」
ーーまずは、自分たちが本当に納得のできる高品質なものを提案するということでしょうか?
相原「そうです。加えて、綿や糸からのプロセスを経て、しっかりしたものを作っているということを、お店のスタッフにもお客さんにも伝えていきたいんです。メイド・イン・ジャパンですべて完結させる一貫した物作りと素材の良さをちゃんと知ってもらいたいなと思っています」
ーーなるほど。ただ、今はリラックス感のあるウェアは、非常に人気がありますが、そのなかで差別化というかSHIPS BLUESTOREならではの狙いのようなものはあるのでしょうか?
相原「基本的にはシンプルなものです。ですが、確かに似たようなものが世に溢れている中で、デザイン的にちょっとギミックが効いたものを提案するように意識はしていますね。スウェットも首のリブを外してシャープさを出したり、通常のものと比べたら太番手の糸を使って、部分的にニットのような見え方にしてみたり。でもだからといってデザインが主張し過ぎていて、すぐに飽きちゃうようなものではなくて、よく見るとちょっと他とは違う、そういうさじ加減のものですよね。やっぱり着てもらうとちょっと違うのがわかるというか。ベーシックなんですけど、雰囲気が違うなと伝わるものがSHIPS BLUESTOREのウェアなんです」
橋爪「カットソーに関して補足しますと、例えば手首のリブは横附属と呼ばれるボディとは違う編み方で、全然違う表情に見せています。でも全く同じ糸を使っているんですよ。色の見え方がボディとリブで変わっていますが、全く同じ糸というのは、あまりないんですよ」
ーー統一感はあるのに、ボディとリブで別素材に見えますね。
橋爪「そうなんです。同じ糸を使って同じ色にしているはずなんですけど、カットソーの色の出方とニットにした場合は微妙にずれるんです。こういうラフィという天然素材ならではの表情の違いを上手く取り入れながら、物作りを広げていければいいですよね」
ーー本当に細かいところで違いを出しているということですね。
橋爪「そうですね。ウンチクは本当にいろいろとあるんですが、ラフィという素材は、もう30年ほど前に開発されていて、もともとは大正紡績さんの専売特許だったんです。ただ本当の商標登録はしていなくて、いろんなところで一人歩きして、いろんなラフィが生まれたんですよ。通常の超綿という糸に落ち綿と言われる短い糸を混ぜたものを総称してラフィと言うんですが、まだまだ提案の仕方でいろいろなことはできるんです」
ーーいよいよ春夏ではお二人が手掛けたカットソーが店頭に並ぶわけですが、今後はさらにどんな進化を目指しますか?
橋爪「例えば、すべて同じ糸なのに、いわゆる布帛と言われるシャツ地的なものを袖に使って、見頃はスウェット地、袖口は横附属みたいなものも作っていけると思っています。シーズンによって提案は変わると思いますが、そういう面白い組み合わせができればいいなと、個人的には考えています」
相原「まだ始まったばかりですけど、これから橋爪さんと一緒にそういう取り組みをどんどんやっていきたいですね。普通はカットソー、シャツ、ボトムスなどのメーカーさんはそれぞれ違うので、それを同じ糸でできるというのは面白いと思うんです。新たな可能性を模索していっしょにいろいろとトライしていきたいですね」
相原、橋爪氏の二人は、SHIPS BLUESTOREの高品質なカットソーの糸を紡ぎ上げる大阪の大正紡績さんに特別に潜入させていただいた。綿がどんな工程を経て糸へと仕上がるのか。詳しくは企業秘密のためにお伝えできないが、その規模の大きさには圧倒される。こういった紡績会社とSHIPSとの円滑なコミュニケーションも、橋爪氏の手腕により実現している。今後の展開にも期待。
アメリカ綿を使用したコンパクトシルエットのポケットTシャツ。糸は毛羽立ちの少ないコンパクトヤーンを採用したもので、ボディには自然な光沢感がある。
Tシャツ ¥6,000(+tax)/SHIPS BLUESTORE
首回りのリブをボディと共地にすることですっきりと仕上げたスウェットシャツ。大正紡績との密なコミュニケーションが生んだアイコニックな1枚だ。ラフィ素材のボディは洗うたびにふっくらとした風合いになる。手首のリブはボディと表情が異なるが、全く同じ糸を使用している。
スウェットシャツ ¥14,000(+tax)/SHIPS BLUESTORE
希少価値の高い編機で丹念に仕上げたボリューム感のあるワッフルカットソー。
ラフィー素材ならではの柔らかなで心地よい肌触りは素肌に直接着てもノンストレスだ。季節やシーンを選ばずに活用できる。
ワッフルカットソー ¥10,000(+tax)/SHIPS BLUESTORE
左
橋爪信之 Nobuyuki Hashizume
2008年?2010年にかけてクリストフ・ルメールのブランドディレクターとして活躍。帰国後はフリーランスとしてドメスティックブランドのディレクションにも関わっていた。現在は、あらゆる素材のプランニングから商品開発まで多岐に渡り活動している。ジェネラルデザインでは、アパレル部門を指揮している。
右
相原良宣 Yoshinobu Aihara
SHIPS 広島店にて販売員として10年間のキャリアを積み、東京転勤後、企画・生産担当としてSHIPS JET BLUEやSHIPS BLUESTOREのオリジナルラインナップなどを手がけている。今回のように、直接、制作現場である工場にもしばしば足を運ぶ。常に現場の声をお店やスタッフにフィードバックさせている。