JAM HOME MADE 増井元紀の視点
SHIPS JET BLUEのスタート時から展開があり、いまでは蜜月の関係と言っても過言ではないJAM HOME MADE。トレンドに消費されない洗練されたミニマルな世界観を持ちながらも、さり気なく斬新なアイデアが潜むコレクションは、今やSHIPS JET BLUEにとって欠かすことのできない存在だ。この冬も特別な別注ウォレットを4型制作してくれたディレクターの増井氏に、改めてブランドのアイデンティティを伺った。
――SHIPS JET BLUEが展開するブランドの中でも、JAM HOME MADEはとくに重要なポジションにあるブランドのひとつ。もうだいぶ長いお付き合いですね。
「そうですね。ほかのショップ様でも展開はさせてもらってますが、ショーケースなどをしっかり店内に組んでいただくなど、SHIPS JET BLUEが昔から一番見せ方が丁寧だった。すごく大事にしてくださっていたのが、今振り返ってみても印象的です」。
――JAM HOME MADEはブランドスタート時からアクセサリーブランドとしては異質と言うか、突出して洗練された印象がありました。それは今も変わりませんが、なにか強いコンセプトはあったのでしょうか?
「もともと、学校ではプロダクトデザインを専攻していたんです。そこからジュエリーデザインに転身。最初はブライダルリングからスタートしました。当時からいろんなものが大量に作られて消費されていく社会の中で、最後まで残って、時には後世にまで引き継がれていくものってなんだろうと考えていて、ブライダルリングに行きついたんですね。リングってすごくシンプルな”モノ”ですが、それを身に付ける人にとっては他人が想像できないほどの想いがたくさん詰まっている。そこをどうやってデザインする事が出来るかというところから始まっています」。
――それと平行して若い子たちに向けたシルバージュエリーも作っていた?
「若いお客さまがJAM HOME MADEを選んでくれて、いつかそのお客さまが結婚する時うちでブライダルリングを選んでくれるような、そんな長い目で見ていたんですね。現在ブランドは13年目。当初のお客さまも結婚適齢期。実際にうちでブライダルリングを選んでくれる人も多いです。とても嬉しいことです」。
――“肌に最も近いプロダクトデザイン”というのをコンセプトに掲げていらっしゃいますが、これは具体的にどういった想いが込められているんでしょうか?
「先ほども言ったように、もともと学校でプロダクトデザインを専攻していたんで。いわゆる車とか家電とかのデザインですね。あるとき思ったのが、人とモノとの距離の関係で、人というのは自分から距離が離れるほどこだわりが薄まり、機能面の方が重視される。一方自分から距離が近いもの、例えば服やジュエリーなどは機能面よりもこだわりが強くなる。僕は機能面よりも人のこだわりの部分にデザインの必要性を感じていたので、じゃあ一番距離の近いプロダクトってなんだろうって思った時にリングに辿り着いたんです。ブライダルリングは、なおかつ心にも近い。使い古されていずれ必ずゴミになってしまう家電や車のデザインをすることに儚さを感じてしまっていた学生時代の僕にとって、捨てられないで大事にされる肌に最も近いプロダクトはとてもデザインするべきものだと感じたんです」。
――シンプルでミニマルなものほど、デザインは難しいですよね。変化を演出するのが難しいと言うか。デザインする上で重視していたポイントはなんだったのでしょうか?
「やはりコンセプトです。デザインはミニマムに持っていくんだけど、もうひとつ、2つ、3つ裏がある。見る角度によっていろんな捉え方ができるようなものを作ろうと意識していました。つまりデザインそのものを強く打ち出すよりも、その背後にあるストーリーを重視したと言うか」。
――例えばどんな風に?
「デビューした時に伊勢丹の『メンズ解放区』に出店をさせてもらったのですが、紐で作ったアクセサリーをジャムの瓶に入れて、しかもそれを冷蔵庫で冷やして展示していたんです。当時はもっと男らしいハードなアクセサリーが全盛期だったのですが、僕はもっとナチュラルなイメージで捉えて表現していて。ジャム瓶に入れたのも、アクセサリーを“生モノ”と捉えたからだったんです。そこに込めた想いがいつまでも鮮度を保って腐らないように。そんな意味を込めていたんですね。わりとそれが結構おもしろがられて。『地下の食品売り場じゃなくて1階に冷蔵庫を持ってきた変なやつがいる』ってことでいろんな方に見てもらいました(笑)」。
――ジャム瓶に入ったアクセはSHIPS JET BLUEでも人気でしたね。
「2回目のコレクションでは切削で作るアクセサリーを展開しました。シルバージュエリーって普通、溶かした素材を型に入れてつくるキャストという製法なんです。でも僕はシルバーの棒を回転させて削って作る方法でデザインしたかった。こけしをつくる手法と同じですね。それでヨーヨーや剣玉、コマなどを作ったのですが、それらはすべてロープと回転運動が必要な玩具。そのロープに見立てていたのが、実は1回目のコレクションの紐で作ったアクセサリーで、回転運動のジャイロ効果を世の中のシステムと成り立ちに見立ててコンセプトのレイヤーを何枚も重ねました。まあ当時はそんなことまで細かくフォーカスされなかったけど(笑)、一人でぶつぶつ言いながらそういったストーリーを考えて作っていました」。
――表面的な“化粧”だけでなく、ストーリーを作っている。それがきっとエンドユーザーに伝わっていたんですね。
「あとは塗装ものもおもしろかったと思います。当時シルバーアクセを燻して経年変化を楽しむという手法が流行ったのですが、それをもっとわかりやすく、楽しくさせようと思ってシルバーのバナナにまずは黒を塗って、その上に黄色を塗る。すると使っていくうちに熟していくような経年変化が楽しめるんです。そこにさらにラバーのチョココーティングをしたりもしてました」。
――スカルやクロスなどの、従来の観念的なモチーフにとらわれないアプローチが新鮮でした。それまでのジュエリーにはないポップさやモダンさがあったと言うか。そうやってコンセプトメイクをしていくという手法は、どのようにして辿り着いたのですか?
「ものの“形”や“デザイン”というものは、すでに出尽くしています。既製品で売っているものはデザインでどうこうっていうのはもう完成しているので。そこに重点を置く必要性はそんなに無いって思ったんですね。だからむしろシンプルに。シンプルであればあるほど個性を出すのは難しいですが、その背後に潜むストーリーで世界観を創っていく。もっと内面的にコンセプチュアルであるということですね。それってすごく伝わりにくかったりもするのですが(笑)」。
――でもそれがあるからこそ、今こうやって特別な存在であるのだと思います。
「シンプルだけどコンセプトが強い作品で象徴的なのは、ブライダルのJAM RING。ひとつの大きなリングをお客様が自分で切って、自分でサイズを調整してふたつのリングを作るというものなんです。もともとひとつだったリングを2人で分け合うというところに意味がある。出来上がるものは普通にシンプルなプラチナのリングだとしても、そこに込められた想いが違う。そこに価値があると思うのです」。
――その発想に辿り着くのがすごいですね。
でも、見た目のデザイン的な所も結構やりこんでましたよ。学校卒業後は手作りのアクセサリーを5年くらい路上で売っていて。トコトンスカルのリアリティを追求したりしてました。当時はシルバーを総重量で2kgぐらい身につけていましたからね(笑)。で、あるときふとそういうことではないことに気づいたんですね。JAM HOME MADEを立ち上げる時にはすっぱりそういうのは無くなってました。
――でもそういったプロセスがあるからこそ、より作るものに説得力があるのかもしれません。
ちなみに今回SHIPS JET BLUEで展開する別注アイテムはレザーウォレットですが、レザーアイテムに関しても同様なアプローチでこだわっていたのですか?
「そうですね。同じような考え方がベースにあった上で、財布に関しては長財布と二つ折り財布という普遍的な形状があるので、そこに対して少しエッセンスを入れています。例えば誕生石を入れるなどより使う人の想い入れに近づける要素を入れたり、ウォレットチェーンがねじれてからまないように回転するパーツをつけていたりとか。
――今回はフルジップのロング、ミディアムサイズの二つ折り、スモールウォレット、カードケースの4種と聞いています。
定番的に展開しているモデルを3型と、新しいコンセプトのシグネチャーコレクションから初の別注となるSO(Shin Okishima)MODELの1型、計4型をピックアップして、それをそれぞれ3種類の素材で展開しています。クロコの型押しやシボレザーは過去にあまり使用していない素材なので注目ですよ。
今回のコラボレーションは、定番で展開しているフルジップのロングウォレット(上)、ミディアムサイズの二つ折りウォレット(下)、カードケース(右)の3型、新しいコンセプトのシグネチャーコレクションからSO(Shin Okishima)モデル(左)の計4型で展開。新しい素材に乗せ変えて展開する。クロコの型押しとシボレザーは、その素材を使うこと自体、ブランドではめずらしい。
ロングウォレット 各25','200/JAM HOME MADE × SHIPS JET BLUE
ミディアムウォレット 各19','950/JAM HOME MADE × SHIPS JET BLUE
カードケース 各13','650/JAM HOME MADE × SHIPS JET BLUE
SO(Shin Okishima)モデルウォレット 各9','450/JAM HOME MADE × SHIPS JET BLUE
増井 元紀
東京生まれ。桑沢デザイン研究所プロダクトデザイン科卒。1998年にJAM HOME MADEをスタート。ファッションブランド、セレクトショップとのコラボレーションだけでなく、TVアニメのコラボレーションも展開。そのクリエーションは多岐にわたる。ブライダルリングのワークショップも人気。
http://jamhomemade.com/