日本だけでなく、世界各国のスーツ好きがこぞって訪れる大人気ビスポークテーラー・上木規至さんが愛用するのは、かなり使い込まれた<イル ミーチョ>のキーケース。およそ8年前、代表の深谷秀隆さんがフィレンツェに構えるアトリエで購入したものです。
「深谷さんとは、私がナポリのサルトリアに弟子入りして修業をしていた時代に知り合いました。実は私のお客様第一号は、彼の奥様なのです。その後もいろいろな人に紹介してくれたこともあり、彼がいなければテーラーとしての私は存在しなかったかもしれません。
そんな無二の恩人である深谷さんですが、アルチザンとしても他に類を見ない存在だと思います。彼のすごいところは、クラシックへの深い造詣がありながら感覚に傾倒できること。聞いた話ですが、ある人が深谷さんのアトリエを訪ねると、彼がお客様に納品する靴を磨いていました。その様子を見ていると、時折意味ありげに、タバコの煙を靴にふ〜っと吹きかけている。 “それってどういう効果があるのですか?”と尋ねると、ひとこと“雰囲気!”と答えたそう。そういうアーティスティックなところが、革小物の独創性にも表れていると思います。
それからもちろん、経年変化の美しさも魅力。このキーケースはヌメ革で、最初はベージュだったのですが、使い始めるとすぐに色が変わってきました。同時に革がほどよく潰れてきて、手馴染みもよくなった。使い込んだあとの表情もきっと計算されているのでしょうね」