SHIPS MEN

BRAND FEATURE

“世界中の老舗はあらかた掘り尽くしたと思っていたのに、まだこんな歴史的名品があったとは……!”服飾業界の面々が口を揃えてそう呟く、スペインの古豪。それが「フストヒメノ」です。その代表作は、“テバジャケット”と呼ばれる当地伝統のハンティングジャケット。ジャケットのような、ブルゾンのような、あるいはカーディガンのようでもある、なんともユニークで魅力的な一着。その魅力にハマった 3 人の、ひときわ熱気を帯びた対談がスタート。

Updated 2025.1.29
エスプリ・ユージー
嶋田 亨彦さん
キャリア 35 年超の大ベテラン。 2024 年秋冬シーズンからフストヒメノの輸入代理店となったエスプリ・ユージー社に勤務。ブランド本国と日本の各ショップを繋ぐキーパーソン。
BEAU GESTE オーナー
瀬山 啓さん
ヴィンテージウェアと現行品をミックスした品揃えで服好きから高い評価を集める「BEAU GESTE」を代官山で営む。店名の由来はゲイリー・クーパー主演の映画から。
シップス プレス
蒲生 龍之介
関西のショップで約6年勤務したのち、 2023 年からプレス担当に。現在はカジュアルウェアを主に担当しつつ、ドレスクロージングもリスペクトする 30 歳。

蒲生

おふたりとも本日はご足労いただきありがとうございます。瀬山さんは本来、同業他社という関係のお立場ですが、フストヒメノがシップスのようなセレクトショップ界隈だけでなく、ジャンルを横断する一大ムーブメントになっているということをお伝えしたくて、今回ご出演をお願いした次第です。

瀬山

大手ショップのメディアに呼んでいただいて恐縮です(笑)。フストヒメノ、日本の本格デビューは2024年秋冬からですが、いきなり大ブレイクしていますよね。私の店でもバイイングしているのですが、早々に品薄状態。この記事が公開になるまで在庫が残っているかなぁ……

蒲生

凄い人気ぶりですね。そして嶋田さんは、そんなムーブメントの仕掛け役といえるインポーターの一員。本国とも密にやりとりされているとのことですが、まずフストヒメノのブランドについてご解説いただけますでしょうか?

嶋田

フストヒメノは、1907年にスペインのサラゴサで誕生したテーラリング・ブランドです。創業者はフスト・ヒメノ・プラディラという人物で、当初はオーダーメイド専門でしたが、ほどなくして高級既製服の製作も始めて評判となりました。現在は自社工房で作るジャケットやアウターを主軸としつつ、ドレイクスやウィリアム・ロッキーのスペインにおける輸入代理店も勤めています。

蒲生

100 年以上の歴史をもつ自社工房で服作りをしつつ、英国名門の輸入代理店も務める……面白い立ち位置ですね。そして、同社の看板アイテムといえるのが“テバジャケット”。

嶋田

はい。そもそも“テバジャケット”とは、スペインのテバ伯爵が 20 世紀前半に英国サヴィル・ロウで仕立てた一着がルーツです。貴族の嗜みである狩猟のために誂えたもので、シャツとジャケットを融合させたような独特の襟、カフスつきの袖先、胸と身頃両サイドのパッチポケット、ゆったりしたシルエットなどが特徴的でした。それが当時のスペイン国王・アルフォンソ 13 世の目に留まり、たいそうお気に召したそう。そこでテバ伯爵が国王にもテバを進呈し、スペインの伝統的ハンティングジャケットとして定着していったそうです。

蒲生

もともとは英国製だったというわけですね。

嶋田

そうですね。そんなテバジャケットに少々アレンジを加えつつ、持ち前の優れた仕立て技術で形にしたのがフストヒメノでした。テバを製造するメーカーは今もスペインに複数存在していますが、自社で生産し、しっかりとクオリティにこだわっているのは同社だけといわれます。スペイン王室が御用達に選んでいることからも、その品質と格式が窺い知れます。

蒲生

王室御用達! 名品であることを示すなによりの証ですね。ところで、瀬山さんはテバジャケットの存在を以前から知っていらっしゃったとか。

瀬山

実物を手に取ったことはありませんでしたが、名前だけは耳にしていました。ドレスクロージング界隈では、結構前から話題になっていたようですね。

嶋田

香港発のメンズウェアショップ「アーモリー」が世界に先駆けて発掘し、それで一躍話題になったのです。先ほどお話ししたとおり、フストヒメノはドレイクスの輸入代理店。そしてアーモリーの設立者であるマーク・チョーさんはドレイクス本国の共同オーナーですから、その縁で日の目を見たということですね。

蒲生

そして、満を持して2024年秋冬に日本へ本格上陸。ファーストシーズンから、各店のバイヤーには相当な反響があったそうですね。

嶋田

かなりのヒットでしたね。瀬山さんのようにテバジャケットやフストヒメノの存在をご存知の方も多かったのですが、実物を目にして“やっぱりいいね!”とお褒めの言葉を数多くいただきました。面白いのは、シップスさんのような大手総合セレクトショップから、ボージェストさんのようにツウから愛される個店、バリバリのドレスクロージングに特化したお店からカジュアルメインのショップまで、異例といえるほど幅広いジャンルのバイヤーさんからご注文をいただいたことです。シップスさんに関しても、本来ならドレスクロージングの範疇に入りそうなアイテムにもかかわらず、カジュアルウェアのセクションで買い付けをいただいていますよね。そういうクロスオーバー感が興味深いなと。

蒲生

シップスのカジュアルでは今、クオリティもストーリーもしっかりとした本物の名品を“最高峰のカジュアルウェア”として打ち出していこうという機運があります。実際、お客様のニーズもそうした方向に向かっていますしね。そんなわけで、今なおスペインの自社工房で作られ、王室御用達の栄誉も受けるフストヒメノがぴったりハマったというわけです。

瀬山

私はもともとドレスクロージングを専門としていたので、色々な視点からテバジャケットの魅力に惹かれたのですが、まずテーラード目線で見るとクオリティがとても優れていますよね。身体に付かず離れずの絶妙なシルエットも見事ですし、ラペルのロール具合なども美しい。聞けば、裁断は今でも手仕事で行っているとか。まるでビスポークテーラーみたいですよね。そしてヴィンテージウェアの視点で見ると、やはり歴史あるハンティングジャケットとしての佇まいに魅了されます。フランスのフォレスティエール、イタリアのマレンマなど、狩猟由来のクラシックアウターはヴィンテージ市場でも大変人気のあるアイテムですが、近年は品薄も極まれりといった状況。そんななかで、昔ながらの匂いを残しつつ今も生産されているフストヒメノのテバジャケットは買い付けずにいられませんでしたね。

蒲生

シップスの店頭でも、古着好きなお客様にお求めいただくケースはとても多いですね。そして何より、スタッフ人気が凄い。“これ、めちゃくちゃよくない!?”と身内でまず盛り上がり、その熱量がお客様にも伝わっているという印象です。

嶋田

いやはや、嬉しい限りですね。

蒲生

さて、今日はおふたりにもお気に入りのテバジャケットをご着用のうえお越しいただきました。コーディネートのポイントについて解説いただけますか?

瀬山

私はボージェストのコンセプトでもある、上品なヴィンテージウェアと現行アイテムのミックススタイルでまとめました。ディオールのシルクストールとグッチのホースビットローファーはヴィンテージ、ザノーネのニットとリカルド メッサのパンツは現行品です。胸ポケットには、チーフ代わりにデンツのレザーグローブを挿しています。今日は寒かったので、この上にモンクレールのヴィンテージダウンベストを着てここまで来ました。テバジャケットはグレーのヘリンボーンツイード製。トラディショナルな雰囲気が色濃いので、ヴィンテージアイテムと合わせても一体感を出しやすいですね。全身古着よりは、もう少しモダンさも感じさせる装いに仕上げたいというときに、このテバジャケットはとても便利だと思います。

嶋田

私は長年のブリティッシュ好きでして、今日も英国調な雰囲気ですね。とはいえ全身を英国ブランドで固めているわけではなく、ニットベストはウィリアム ロッキー、シャツはイタリアのオズワルド トルッキ、パンツもイタリアのL.B.M 1911、そして靴はクロケット&ジョーンズと多国籍ミックスにしています。首元にはバンダナをちらりと覗かせてみました。テバジャケットはウールカシミア製。チェックを選んだのは、柄合わせの美しさをお伝えしたかったという理由もあります(笑)。パッチポケットや身頃と袖など、きっちりとチェックの線が繋がっていますよね? こだわりの手裁断を貫くフストヒメノの美意識を感じさせます。当主のフスト・ヒメノさんはタイドアップで合わせるのがお決まりですが、私はそれよりも少しカジュアルダウンして着るのが好みですね。

蒲生

お二人ともさすがの着こなしですね。ちなみに僭越ながら私の服装も少々お話しさせていただくと、ネイビーフランネルのテバジャケットを選んで、紺ブレ感覚で羽織ってみました。トラッドの定番的素材ですが、デザインがテバになるだけでガラリと違った印象に見えますよね。この新鮮さがツボなんです。シャルべのシャツ、ジーニックのシップス別注セミフレアジーンズ、ジェイエムウエストンのスプリットトウUチップを合わせて、フレンチなイメージでまとめてみました。あとは、テバをあえてサイズアップしているのもポイントでしょうか。これくらいユルっと着てもサマになりますよね。

瀬山

テバジャケットって、とても懐の深いアイテムですよね。仕立てがいいからネクタイを締めてドレスアップすることもできるし、蒲生さんのようにオーバーサイズでカジュアルに着流すこともできる。ボタンも4つありますが、真ん中2つを留めてもいいし、1つ掛けでも3つ掛けでもいい。もちろん全部開けて着てもいい。カフスにしても、今日の私の服装では袖ボタンを留めていますが、嶋田さんと蒲生さんは開けて折り返していますよね。とにかく自由に着られて、どう着ても正解というのが魅力なんです。

蒲生

まさしくそのとおり。今日も三者三様のコーディネートとなりましたが、それもテバジャケット特有の自由さゆえですよね。

嶋田

芯地を最低限にし、裏地も省いた仕立てですから、着心地の面でも自由さを感じられるはずです。冬場ならカーティガンやブルゾンのように、春夏ならシャツ感覚で羽織れるのが魅力ですね。

蒲生

ちなみにシップスではこの春夏シーズン、リネンやホップサックウールを使用したテバジャケットが入荷します。Tシャツの上にサラリと羽織ってみたいですね。着用する世代も問わず、若い方が着れば大人の上品さが、年齢を重ねた方が羽織ればフレッシュな自由さが漂うアイテムだと思います。

瀬山

当店にも春夏版が入荷予定です。もとはハンティングジャケットですが、エスパドリーユのような海辺のアイテムを合わせても映えそうですね。とにかく、料理のしがいがあるアイテムですね。ところで嶋田さん、ちょっと気になったのですが、このテバジャケットって、フラワーホールの反対にボタンを付けて、襟元を留められるようにしても格好よさそうじゃないですか? たとえば、動物の彫金が入ったヴィンテージのメタルボタンとか……

蒲生

それいいですね! 着こなしの幅もさらに広がりますし、ぜひ採用してほしい!

嶋田

なるほど、本国に相談してみましょうか。当主のお眼鏡に叶えば、実現の可能性もあるかも。テバジャケット、これから面白くなりそうですね。

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