SHIPS KIDS

JOURNAL

What is a
Christmas Present?
12月。冷えた風が街を通り過ぎ、
冬の訪れを感じるとき、頭に浮かぶのは、
自分の冬支度のことより、大切な人への
クリスマスプレゼントだったりする。
「今年はどんなホリデーにしようかな」。
そんな雪より先に期待が積もる冬の物語を、
脚本家・生方美久さんが紡ぐ。
これは、とある家族がかけがえのない
クリスマスを迎えるまでの話──。
Updated 2024.12.11
What is a Christmas present?
Miku Ubukata
クリスマス
プレゼントって、
なんなんだ?
What is a
Christmas present?
誕生日にプレゼントを贈るのは、
「生まれてきてくれてありがとう」
というお祝いの気持ちを物に込めるから
誕生日にプレゼントを贈るのは、
「生まれてきてくれてありがとう」
というお祝いの気持ちを物に込めるから
何かを達成したとき、応援したいとき、
労いたいとき︙︙
プレゼントはいつだって、なんらかの
気持ち≠贈るための手段だ。
夫がくれたいちばんのプレゼントは結婚指輪だった。
「結婚してください」の気持ち。
んー。じゃあ、クリスマスプレゼントって、なんなんだ?
んー。じゃあ、クリスマスプレゼントって、なんなんだ?
夫に結婚指輪をもらって早9年。
7歳の娘はプレゼントに対する希望を
これでもかと要求するようになった。
今年6月の誕生日には
「プレゼント勝手に買わないでね?いま考えてるんだからぁ」と、
ため息交じりに言われてしまった。
生意気だ。親の顔が見てみたい。
誕生日もクリスマスも、高価なおもちゃが手に入る
良い機会だと認識しているようだ。
当面の間はプレゼントご指定システムが続くだろう。
それからあっという間に半年が過ぎた。
娘は身長が3p伸び、
ピンクより水色が好きになり、
納豆が食べられるようになった。
さぁ、クリスマスがやってくる。
7.5歳の彼女はなにが欲しいのだろうか。
「ねぇ、クリスマスプレゼントなにが欲しい?」
「なんでもい〜」
「え」
「なんでもいい〜」
「︙︙え?」
「なんでもい〜」
「え」
「なんでもいい〜」
「︙︙え?」
なんてこった。父親に似てしまった。
夫に意見を求めるといつだって「なんでもいい」だ。
それでいて文句を言う。
「なんでもいい」は「考えるのめんどくさい」と同義。
「欲しいものないの?」
「欲しいものはあるけどなんでもいい〜」
「なにそれ。欲しいもの教えてよ」
「やだ〜」
「なんで」
「やだから〜」
嫌な理由を「嫌だから」と言うところにも
父親の遺伝子を感じる。
ここまでくるとこの事態は、
9年前にニコニコ笑顔で結婚指輪を
受け取ってしまったわたしの責任だ。
責任は夫婦で分担するべき。
よって、ダメ元で夫に経緯を説明する。
「なんでもいいって言ってんなら、なんでもいんじゃない?」
ほーーーーーーら!そう言うと思った!!
こうなるともう、自分一人で解決するほうが楽。
夫を動かすのはめんどくさい。
7歳女児の流行りを調べ、ママ友に相談すれば
大ハズレはないプレゼントを用意できるだろう
︙︙それでいいのだろうか。
一人娘のクリスマスプレゼント。
年に一度のイベント。
娘の「パパママありがとう!」が聞きたい。
笑顔が見たい。
自分だけでなく、こういうときは夫とセットがいい。
うん。めんどくさいけど、
ちゃんとパパにもがんばってもらいましょう。
夫のケツを叩き、リサーチさせる。
とにかく娘との会話を促し、
クラスでの流行りやお友達とどんな遊びをするのかを聞き出す。
YouTubeの閲覧履歴や
過去のプレゼントの推移まで調査。
(探偵ごっこ感覚だと思うが)
夫もだんだん楽しくなってきたようで
「すみっこぐらしってやつが流行ってるらしい」
「知ってる」
「ペットなら犬より猫がいいって」
「えっそうなんだ!」
と、夫婦の会話も増えた。
そうして迎えた聖なる夜。
夫婦で調査と議論を重ねた結果
導き出したひとつのプレゼント。
華やかなプレゼント箱を娘に手渡す。
包み紙を容赦なくビリッビリに破くその姿は、
完全に母親似。プレゼントを手にした娘、
ビー玉のように澄んだ瞳で、
「パパママありがとう!」
あってた!欲しいものあってた!!
「どういたしまして〜」「大事にしてね〜」
と娘に微笑みかけながら、
脳内でガッツポーズやハイタッチをする一組の夫婦。
「欲しいのこれだったんだ。
最初から言ってくれればよかったのに」
「別にこれじゃなくてもいい」
「え?欲しいのと違った!?」
「パパとママが選んだのが欲しかったの!」
クリスマスプレゼントも、やっぱり気持ち≠セ。
なにを祝うわけでもない。
労うわけでもない。
年に一度訪れるその日に向けて、
あれやこれやと試行錯誤する過程も含めて、
相手に喜んでほしいという気持ち=Aそれだけ。
クリスマスプレゼントも、やっぱり気持ち≠セ。
なにを祝うわけでもない。
労うわけでもない。
年に一度訪れるその日に向けて、
あれやこれやと試行錯誤する過程も含めて、
相手に喜んでほしいという気持ち=Aそれだけ。
プレゼントご指定システムは、たしかに楽だった。
でも、こっちのほうがずっと楽しい。
もらう娘も、あげるわたしたちも。
ちなみに、「水色が好きだったのは秋までだよ〜」
とのことで、
今いちばん好きな色は薄い紫らしい。
今後も調査が必要そうだ。
FIN
Profile
生方 美久 / Miku Ubukata
1993年生まれ。大学卒業後、助産師、看護師として働きながら、独学で脚本を執筆。第33回ヤングシナリオ大賞で『踊り場にて』が大賞を受賞し、ドラマ化。2022年、連続ドラマ『silent』で全話の脚本を担当し、社会現象になるほど人気と注目を集める。近年の代表作に、ドラマ『いちばんすきな花』、『海のはじまり』、映画『アット・ザ・ベンチ』(第1編、第5編を担当)がある。
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