「VANの紙袋を提げていたころは、ブレザーにBDシャツ、レジメンタイ、チノパンにコインローファーという典型的なアイビースタイルが大好きでした。が、経験を積むうちに判で押したような格好はしなくなりましたね。今はアメトラなスーツがワードローブの中心です。今日着ているのはサウスウィックのもので、7mmステッチのラペル、フロントダーツなしのボックスシルエット、パッチ＆フラップポケット、ふたつボタンの袖口など、アメトラの王道が詰まった一着。だからこそ、コーディネートは直球にならないよう意識しています。黒のニットタイやレジメンタイではなく、50オンスツイルのブルーグレータイ。BDではなくタブカラーシャツ。ちょっとアンニュイなパフトで挿したチーフは、タイと色みを揃えました。ナード（野暮洒落）なテイストのスーツだからこそ、Vゾーンはキリッと決めるイメージ。そんなバランスを意識しています」

「スーツの定番といえばネイビー系ですが、私は断然グレースーツ派。持っているスーツの8割くらいはグレーですね。それも、無地をはじめとしたベーシックな柄が大半です。しかしそのぶん、生地の風合いはいろいろとバリエーションを揃えています。春夏ならトロピカルウールやウールリネンなど。秋冬はフランネルやサキソニー、それからツイードスーツも持っていますね。今日のスーツは細かめのバーズアイ柄。遠目にはプレーンな無地のようでも、近づくと表情のある雰囲気が気に入っています。グレーの濃度も大切で、春夏向きの華やかなライトグレーから冬の街に合うミディアムやチャコールまで、グラデーション状に揃えると装いに奥行きがつけられます。このあたりはクラシック＆トラッド好きの方には言わずもがなですね。スーツ自体ではこれ見よがしに主張せず、Vゾーンでパーソナリティを表現する。そんなスタイリングが好きなんです」

「トラッドスタイルというと、足元はコインローファーやサドルシューズ、ロングウイングのフルブローグといった靴がお決まり。しかし私はあえてそのあたりを避けて、トラッドなスーツにこそ華奢な靴を合わせるようにしています。今日履いているのはヴィンテージのチャーチ。『グッドリッチ』というモデルです。リザード製というのも変わっていますが、108ラストという細身の木型を採用しているところが気に入っていますね。定番ストレートチップの「コンサル」よりもスマートなフォルムで、コバの張り出しも抑えられています。実は私、学生時代からのチャーチファン。当時はヴィンテージのリーバイスを求めて古着屋に足繁く通っていたのですが、そこで見たチャーチにすっかり惚れ込んでしまったのです。ちなみに同じころVANの存在も知り、以来アメトラへ傾倒するようになりました。そういうわけで、チャーチは私にとって特に思い入れの深いブランドなんです」